サムスンバイオロジクス

 何気ないニュースだが、妙に引っかかることがある。この5月にバイデン大統領が韓国訪問した際に、サムソンを訪ねている。そのサムスンが次なる成長分野に、人工知能、半導体、ロボット工学に並んでバイオ医薬を挙げているのだ。え、なんでバイオなんだ。そんな疑問がすぐに浮かんだ。無知なこともあるが、富山の事情も背後にある。ジェネリックで成長軌道に乗せた日医工、広貫堂が不正製造で行政処分を受け、断末魔の状況を呈している。ジェネリックもバイオも、米国の後追いビジネスだが、100億円で参入できるジェネリックに比べ、バイオは1000億円が必要とされる。規模の小さな地方企業が我も我もと参入し、利幅が小さくコストカットに窮して、つい不法行為に手を出してしまう。こんなところに日本経済停滞の原因があるのではないかと思った。

 サムスンバイオロジクスは2011年に設立され、グループ内のヒト・モノ・カネが惜しげもなく投入し、開発分野は欧米に任せ、その受託生産で「第2の半導体神話」を目指した。そして、わずか10年余で世界一となっている。世界の医薬品市場は伝統的なケミカルからバイオへとパラダイムが大きく変わり、バイオは4割以上を占め、その勢いは止まらない。

 もうひとつ指摘したいのが、90年前後のアジア通貨危機で、韓国はIMFの苛酷な洗礼を受けていること。金大中大統領は心ならずも、財閥に大規模な事業リストラ策で選択と集中を迫り、その成長に賭けることで何とか切り抜けた。そのために多くの人の血と涙が流された。資本主義が生き延びるための避けて通れない犠牲でもある。その洗礼を受けていない日本経済はゆでガエルのように徐々に衰退するしかなかった。10余年前に、「打倒サムソン」と叫んだパナソニックのトップの声が虚しく聞こえる。

 さて、バイオ医薬品の基本的なことを押さえておきたい。病気に対して治療効果があるたんぱく質を、遺伝子組み換えや細胞培養といった生物の力を活用して作る。従来の医薬品は化学合成で製造し、様々な薬品を作り出してきたがその分子は非常に小さい。これに対し、バイオ医薬品は非常に複雑な構造のタンパク質からできており、分子は非常に大きい。口から飲むと、タンパク質は酵素で分解されてしまうため、飲み薬は難しく、ほとんどが注射剤である。病巣にピンポイントで働きかけて治療するため、効果は大きく、副作用も比較的少ない。デメリットといえば、高額なことだ。オプジーボを想像してもらえばいい。現時点では製造そのものが複雑で品質管理が難しく、量産が難しい。問題は、高額なバイオ医薬品が国民皆保険で、平等に利用できるのかどうか。医療財政がパンクしてしまうのは目に見えている。生命の優先順位、トリアージが議題になるかもしれない。

 成長分野のバイオ医薬品だが、彼我の差を嘆いてばかりいても仕方がない。政府主導では展望が開けないことだけは確か。萩生田や甘利がしゃしゃり出てきては、先が見えている。ここは才気走る人間ではなく、陽の目のあたっていないポスドク助教にポンと数億渡してみたい。

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