中田図書新聞、地元書店の心意気

 レジ前にさりげなく積まれている。A3を二つ折にした、いかにも手作りという中田図書新聞。BOOKSなかだの書店員が手分けして書いている書評誌だが、なかなかレベルが高い。年4回、不定期発行。3月31日発行が70号だから、ほぼ18年続く。その編集後記には、「そこに(本)があるから」買わずにいられないという皆様のためのセレクトを送り続けます。出版不況で本屋の廃業が相次ぐなか、自らを励ましているように聞こえる。老人としては、その心意気に応えなければならない。昔、東京駅前の八重洲ブックセンターで、送料無料となる買い上げ額15000円に挑戦していたのを思い出した。ここは呑み会1回をスルーすることにして、1万円を投じることにした。買えないと思う本が買える不思議な作用が働く。何となくうれしい。

 さて中田図書新聞だが、終面の手づくり4コマ漫画がいい。「カケオくん」だが、BOOKSなかだ本店が富山市掛尾町にあるので、もじったのだろう。今回は「本の雑誌」を創刊した目黒孝二を追悼している。作家や評論家が書く書評ではなく、誰しも面白いという本を自分たちで書いて、自分たちで広めたいと立ち上げたのが「本の雑誌」。書評文化の新境地を切り開いた。カケオくんは「ぼくは本の雑誌でできているんだなあ」とリスペクトを語り、新刊の背表紙を見ているだけで幸せという思いがにじみ出ている。本屋の店頭に立ち続ける誇りの高さが清々しい。こんな本好きが書店を支えているのだ。

 紹介しているもので、老人が興味を持ったものを挙げてみる。「母という呪縛 娘という牢獄」斎藤彩著(講談社)。母子関係の難しさが殺人につながった凄惨なノンフィクション。読み出したら止まらないと思う。「キーエンス解剖 最強企業のメカニズム」西岡杏著(日経BP)。「30代で家が建ち、40代で墓が立つ」といわれる日本一の高給と、分単位の日報を記入する営業職の苛酷さが同居する企業への興味深さは尽きない。「黒と誠~本の雑誌を創った男たち~」カミムラ晋著(双葉社)。先ほど挙げた目黒孝二と作家・椎名誠の出会いから書評誌自体をエンタメとして成功させていくサクセスマンガである。下欄の書誌情報が「噂の真相」に似ていて、センス良しだ。

 そういえば、本屋大賞は本の雑誌社の営業担当が、03年の直木賞が受賞作なしと知り、それなら書店員の声を拾い上げていこうと思い立ち、「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」をキャッチフレーズに誕生した。第1回の受賞作が小川洋子著「博士の愛した数式」(新潮社)で、書店では本屋大賞コーナーを設けて積極的に推奨し、ベストセラーに押し上げた。今では直木賞や芥川賞を超える売り上げを記録するといわれている。
 しかし、こんな努力も虚しく、現実は苛酷に出版界をむしばんでいく。それは否定しようがない。書店員が台車に新刊を積み上げて、ほとんど売れていない本を返品すべく交換していく姿は、シュジュフォスの神話にある無益で希望のない労働のように見える。若き店員さんよ、申し訳ないと人知れず頭を下げるしかない。この無力感はとても哀しい。何か方策はないのか。

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