「誠意ある呼応」で、日韓関係の転換を。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が3月に来日し、徴用工問題の解決に向けて岸田首相と11年ぶりの首脳会談を行った。イニシアティブを取って、リードしたのは伊大統領。4月に訪米するがバイデン大統領からは国賓待遇が約束され、7月の広島サミット招待も囁かれ、その前に解決しておきたいという思惑。中国や北朝鮮を念頭に、日米韓の同盟強化で対抗していこうという魂胆だ。韓国の右派らしく大きな賭けに打って出た。北との友好を掲げた文大統領とは全く逆で、政権交代のダイナミズムを見せつける。

 さて、徴用工問題の解決策だが、韓国大法院は個人請求権を認め、日本製鉄、三菱重工業に賠償を命じた。政府は対応せざるを得ない。日本側は賠償を実行すれば、非常手段も辞さないと応じない。それなら韓国側の財団がその賠償を肩代わりすると決断した。加えて、肩代わりしたものを請求できる「求償権」も想定していないと明言。当然、韓国世論は屈辱外交と反発し、65%が反対だ。水面下では、そこまでするのだから岸田首相が自らの言葉で謝罪を述べてほしいし、賠償を命じられた日本企業は寄付などの形で財団に出資してほしいと、「誠意ある呼応」を求めている。

 韓国保守系大手紙は「これは決着ではなく、始まりに過ぎない」と社説で訴え、「コップの半分以上に水を入れた。あとは日本が誠意ある対応で水を満たす番である」と記す。これに対して、日本の反応は全く冷めている。思い出されるのは安倍が行った半導体素材の輸出規制などの愚策と「それでもやれ」というヤクザ外交。弱気を見せれば叩かれるという思考が岸田政権だけでなく、世論も金縛りにしている。外交視野が狭く、時に打って出るという矜持の無さ。停滞しきりの日本の現状を象徴している。

 いま一度立ち返るとすれば、65年の日韓請求権協定であろう。喉から手が出るほど日本からの経済協力が欲しい朴正熙政権に、植民地支配は合法だったと迫る日本。韓国は妥協策として、Already null and void(もはや無効)という表現を持ち出し、双方それぞれの解釈で乗り切ることを提案した。植民地支配は合法で有効だったけれど、敗戦で無効になったとする日本。もともと違法で無効だったと解釈する韓国。内容だが、賠償ではなく経済協力として無償3億ドル、有償2億ドルで、カネではなく、日本の製品や設備を相当額提供したのである。国内の企業振興策でもあったのだ。偉そうなことはいえない。従来の小賢しいやり方をやめて、この際すっきりと個人請求権を認め、国際的な人権感覚で、出直し的な解決策を模索した方がいい。受け身で、展望のない日韓外交から、大きく転換する機会と捉えることだ。

 もうひとつ指摘したいのは、日韓での逆転現象。65年当時GDPで30倍近い差があったが、今では平均賃金とひとり当たりGDPでは韓国が上回っている。加えて、軍事政権を自らの血を流して勝ち取った民主化も、日本の対比でみると大きな逆転に見える。この機会を逃すとパススルーされる日本というのも現実味を帯びてくる。米中対立の前面に立たされる日韓が共同して、立ち向かう方策があるはずであり、東アジアの安定に計り知れない効果をもたらすことは間違いない。

 また、最近の報道で韓国の合計特殊出生率が0.78と知り、生き辛さを感じる点では日韓共通している。こんな問題意識を共有することも大事で、若者の交流を盛んにして、こんな風にしたらいいよ、と相互に相手国で起業させることがあっていい。繰り返すが、広く大局的な日韓外交にチェンジする好機を逃してはならない。

 

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