ゴジラ、アカデミー賞

 縁遠いと思っていた映像で、何か表現できるのではないか。「ゴジラ-1.0」を見終わって、そう思った。アカデミー賞の視覚効果賞を受賞した反響は大きい。日本映画として初めて。「どう作られたのか」も評価対象で、古典的なトリック撮影と最新技術が見事に融合して、わずか35人のクリエイターで制作したという。日本の誇るべき侍チームであり、手練れの集団だ。加えて、製作費が約15億円とハリウッド価格の10分の1で、まるでマジックだと感嘆されている。

 何はさて置き、3月18日TOHOシネマに走った。月曜日の午前でもあり、閑散だろうと思ったが、ご同輩と見える男女が半々でざっと50人。アカデミー賞の最大効果は興行成績を押し上げることだというが、これで頷けた。3月18日発表で64億円となっている。

 東宝がゴジラを上映してから70周年、国産実写で30作目の記念作品となるのだが、どんな論議が重ねられてきたのだろうか。東宝にとっては社運を賭ける挑戦。誰を監督に据えるのかで熟考し、山崎貴に絞り込み、次に山崎の作品のすべてに関わっている阿部秀司をエグゼクティブ・プロデューサーに起用して、司令塔とした。山崎には脚本も、VFXも任せて、35人のクリエイターが所属する制作集団「白組」を実働部隊とした。実は山崎もこの白組に所属している。この気心の知れた構成にしたことがレベルアップにつながった。老人の推察である。

 64年生まれの山崎監督が選んだ時代設定は、敗戦直後の焼け跡東京。「三丁目の夕日」を作っているが、懐かしき昭和にゴジラを持ち込んだストーリーは団塊世代を意識しているのか。特攻を機体不良だと逃げ残り、離島にゴジラが襲来し、多くの仲間を失った青年が主人公。捨て子を見知らぬ女と育てるなど「生きて、抗え」をテーマにした人間復活劇と、ビキニ水爆実験で被爆し、細胞が異常に巨大化して出現したゴジラの理不尽な暴走を絡ませる。敗戦で武力のすべてを失った日本で、民間による寄せ集めの知恵と装備でゴジラを仕留める。大団円というストーリーがいい。

 ここは白組にやはり注目したい。創業50年で当初はアナログアニメがスタート。84年に調布スタジオができて、つくば万博や世界デザイン博の展示もので急成長した。文化祭のノリで、徹夜も厭わないチームワーク。今回のゴジラでは、25歳のVFXデザイナーの野島達司が山崎を説き伏せて、荒波をかぶりながら暴れまわるゴジラを再現している。野島はその才能を見込まれ、スカウト採用された。才能が才能を呼び集め、凝縮されて、創造力に磨きがかかる。山崎が椅子をすべらせながら、スタジオ内を自由にさまよい仕事を進めていく。推察できるのは、誰もがワイガヤで取り組んでいる自由な雰囲気だ。弱点といえば、賃金の低さだろうか。興行収入の大半は東宝に入るようになっているらしい。

 多分、アカデミー賞受賞を機に、ハリウッド資本は米国進出を促すだろう。野島君に提示される年俸は白組の10倍、5000万円だとしたら、ふたつ返事は間違いない。

 老人の思いは、白組が個人の注文を受けて、映像によるオーラルストーリーを作ってくれないだろうか。白組のリタイア達が担当し、価格は300~1000万円。有料の映像葬などやってもいい。死ぬことが楽しくなると思う。

 

 

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