「死なないノウハウ」

 奈落の底に突き落とされたピンチでも、何とか生き残ろう。そのための情報を突撃取材で掻き集めたのが「死なないノウハウ」(光文社新書)。著者・雨宮処凛の思いが詰まっている。光文社の編集担当者とのやりとりが想像される。22年7月に亡くなった女優・島田陽子が「無縁仏」になったという報道に衝撃を受けたのが執筆動機。島田は大腸がんだが、抗がん剤を飲んでいなかった。経済的な理由だと想像している。遺体を引き取る人もおらず、自治体によって火葬された。享年69。あの大女優の末路は他人事とは思えなかった。

 高齢独居女性に必然となる貧困だが、49歳となった雨宮は届いた将来受け取る年金額が月に4万円と知って、明日はわが身と慄いた。フリーランスの単身で、共に暮らすのが猫1匹。女性の平均寿命が87歳だから、まだ38年生きなければならない。雨宮のいいところは深く考えないところ。「これから先の不安」をつぶす取材にまい進し、想定される不安の解消策をこれでもか列挙している。カネ、仕事、親の介護、トラブル、がん、死などなど、人生の荒波を乗り切っていけるバイブルといっていい。孤独死での腐乱死体化を防ぐために、合鍵を預ける親友をという具合。また、入居金6000万円の高級老人ホームへの潜入取材も面白い。定価は税別の900円。価格設定も当然求め易さからの判断だろう。「だめ連の資本主義 よりたのしく生きる」という本も出ているが、本質は通底している。

 さて雨宮は75年、北海道生まれ。美大を目指して上京するが2浪するも果たせず、食っていくためのアルバイトでは数日で解雇されることもあり、自殺未遂も経験する。その後右翼団体に親近感を覚え、右翼団体に属したこともある。貧困格差を考えると、世の仕組みがおかしいと思い始め、「反貧困ネットワーク」に加わる。宇都宮健児や湯浅誠に触れあう中で、「年越し派遣村」という貧困という現実にひそかに立ち向かう活動に共感していく。また、れいわ新選組の山本太郎とも反原発で共鳴し、支援している。右翼左翼とめんどくさいレッテル貼りから無縁で、ひょいひょい乗り越える感覚だ。

 羨望の6000万円の高級老人ホームだが、千葉・鴨川にあり、著名な亀田病院とも連携している。入居金だけで済むわけがなく、共益費、食費など月35万円が必要。息を呑むような絶景を見ながらの暮らしだ。知人は79歳で、奥さんとの別居が前提。もちろん奥さんには使い放題のカードを渡している。ところがそんな知人が入居して1年も経ないで退居してしまった。孤立無援に堪えられなかったのだ。それを聞いて、何かほっとした。

 「現代は、誰もがちょっとしたことで奈落の底に突き落とされ、一度滑り落ちてしまうと這い上がるのは至難の業という無理ゲーな時代」というが、「死なないノウハウ」を活用しながら生き延びることも、それ程不幸なことではない。高級老人ホームの孤立無援の無機質な贅沢三昧にしても、それほど幸せをもたらすものではない。

 少子高齢化にして、災害が頻発する日本。手をこまねいていてはひたすら亡国への途。しっぺ返しのひとつぐらい見舞ってやろうではないか。死なないで、ちょっと面白くして、生き抜くのだ。

 

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