半導体から考える

 経済産業省は、半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県内に進出するに際し、7500億円の補助金を出すという。他にも国内の半導体生産や開発支援も想定しており、その総額は1兆9千億円となる。半導体不足で自動車生産がストップしたと聞いていたが、あらゆる産業に半導体が不可欠であることがようやく理解できた。ということは、半導体を経済安全保障上も極めて重要な製品であり、自国で生産して確保することが最優先。もちろんコストは度外視。そこで経済産業省の出番となり、2兆円ぐらいどうってことはないとなる。思い出すのは1986年の日米半導体協定である。破竹の勢いで市場を席巻した日本の半導体産業は量的にも制限され、価格においてもダンピング規定で、あっという間に息の根を止められてしまった。規制を受けないサムソンが抜け出した一因でもある。米国最優先がどんなものか見せつけたのだ。決して忘れてはいけない。そんな屈辱経験をしても、見境なく血税を投入していいのだろうか。

 さて考えてみると、小学校6年の夏休みに従兄の手ほどきで真空管ラジオを作り、64年の大学進学時にFMの聴ける小さなソニー製のトランジスタラジオを買ってもらった。江崎玲於奈がソニーでトランジスタに携わっていた時期と重なる。その江崎がIBMのワトソン研究所に移り、世界の最先端を知ることになる。73年のノーベル賞となるが、2014年の青色LEDで3人の日本人受章で日本の技術レベルに誇りを覚えた。半導体の歴史がわが日常生活にも、色濃く反映している。

 といいつつ、半導体とは何か、基本的なことがわかっていない。いつもの本屋でぶらぶらしていると、中学、高校生向けに編集されている「半導体がわかる」(毎日ムック)が目に入った。進学、就職ガイドのような編集で、700円という手頃さでわかり易い。電気をよく通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」、その中間的な性質を持っているから「半導体」といい、セミコンダクターはいわば英語の直訳である。三つの機能を持っており、ひとつは電流をオン、オフするデジタルデータでの計算機能、更に電流を増幅することで機械を動かす機能、三つめは光を電気に、電気を光に変える機能だ。つまり半導体素子をいろいろ組み合わせて、高機能なⅠⅭ集積回路となる。それらを凝縮してシリコンウェーハにプリントしていく。その回路線幅が問題で、現在では究極2ナノメートル(10億分の1)で量産にできるか、どうかの競争となっている。微細化、高純度化技術が決め手だ。

 この最先端半導体を、国産化で巻き返そうと2022年に設立されたのがラピダス。トヨタやソニーなど国内の主要企業8社が出資し、新工場は北海道の千歳市で、2ナノ半導体の量産化を目指す。現在の実力は40ナノ世代だから、2ナノ世代まで一気にジャンプさせなければならない。TSMC、サムスンともに3ナノまではクリアしているが、2ナノでの量産には至っていない。工場建設から量産開始までには5兆円規模の投資ともいわれ、2027年までが勝負となっている。経済産業省も躍起になっているが、これは危うい。政府の肝入り、加えて企業の連合体制。これでリスクの伴うダイナミックな意思決定ができるのだろうか。ライバルとなるTSMC、サムスンは創業一族が身銭を切って立ち向かってくる。

 半導体製造には600以上の工程があり、それぞれに製造装置が必要だ。老人が現役の頃の企業イメージだが、水とポンプの荏原製作所がウェーハの研磨機で世界2位、写真製版の大日本スクリーンがウェーハの洗浄機で世界1位と、昔の企業イメージを一新している。老人の杞憂かもしれないが、日本の強みを生かしつつ、着実な戦略があっていい。

© 2024 ゆずりは通信