組織病理

中途退職した後輩から「求人広告を見ていたら、NHK地域スタッフ募集とあったが、どんな仕事か聞いてもらえないか」と連絡をもらった。10年以上も前のことである。その時の返事が「おい、新聞拡張員の方がまだいいぞ。将来性のある仕事ではない」。固定給15万円のほかは歩合給。テリトリーは決まっているが、受信料契約を取らない限り収入が増えない。払わなくても、罰則規定がないからただお願いするしかない。
 そのNHK地域スタッフで構成する全日本放送受信料労働組合が立ち上がった。海老沢勝二NHK会長の辞任を求めている。全国で組合員が約5700人。成沢浩書記長は72歳。この年齢がいい。「われわれが騒げば、不払いがさらに増えると心配する声もあった。しかし、今までの不祥事では、辛抱しておれば元に戻ることが期待できたが、今回は違う。このままではじり貧状態が続く」と堪忍袋の緒が切れた。対する海老沢会長は記者会見で、「どっかの新聞に載っていたが、組合から辞任要求はきていない。地域スタッフは個人契約で委託業務。名前は労働組合となっているが、最高裁でも組合と認めていない。お門違い」と、人間とも見ていない風だ。受信料で成り立っていることを忘れている。そして9月9日に国会で陳謝した際の態度が悪かった。「何だあの偉そうな態度は」と苦情、抗議が殺到した。「たかが選手」のあの人に似ている。NHK発表では不払いは31000件だが、口座引き落としの契約解除は含まれていない。東京では、銀行員がNHK契約解除の用紙をかばんに入れて持ち歩いているという。それほど多いのである。辞めてもらうしかないというのも頷ける。
 NHKといえば、日放労委員長として辣腕を振るった上田哲と、政治部出身で権力に密着したシマゲジこと島桂次前会長。そして、書架の奥にある古い本を思い出した。「NHK社会部記者」。著者は元社会部長の神戸四郎、「かんべ」と呼ばずに「ごうど」というので記憶に残っていた。1986年の出版だからほぼ20年前。この2人がしばしば登場する。テレビ時代到来とともに、報道のNHKを標榜し、新聞に追いつき追い越せと全国的な報道体制を確立していく時期と重なる。その半面、NHKの予算は国会の承認が必要であり、最大の難問が受信料の値上げで、そのために時の政治権力に翻弄される組織の宿命がある。
 ロッキード事件がはからずもそのことを露呈させた。小野吉郎NHK会長が保釈された田中角栄を見舞った一件である。そして、島は「ニュース9」で、ロッキード事件5周年の企画をボツにしている。上田哲は社会部出身で「ポリオ撲滅」報道キャンペーンを主導したが、政治家に転身するや、NHKの人事も左右するようになり、後援会組織に管理職含めて多くが加入していた。国会対策を担当するスタッフは政治部出身者で占められていて、自民党郵政族に接触して、外遊の世話や、子弟の就職の斡旋もしているといわれている。
 島と海老沢の確執も凄まじい。海老沢は政治部長も務め、一時期「シマゲジの右腕」といわれていた。しかし、磯村尚徳が都知事選で敗れた翌日、島から理事解任をいわれ、NHKエンタープライズに飛ばされた。それから、島追い落としが始まった。島がアメリカへ衛星放送に使うロケット打ち上げの視察に行った際に、その現場にいなかった疑惑が国会で追及されだした。内部から流出したとみられる決定的資料が当時の野中広務自民党通信部会長に届けられた。そうして島辞任の流れが作られたのである。その都度、上田派、島派とみられる幹部、職員が人事で冷遇されていった。そんな組織病理を抱えている。
 そんな組織だが、真面目で優秀な職員が多いことも事実である。恐らくまだまだ過渡期であり、何らかの自浄作用が組織内部から起こってくるはずである。自民党の右傾化がますます強まる中で、その片棒を担ぐことだけは許してはならない。

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