あわれ 秋風よ

搾りたての牛乳を飲み干し、眼下の日本海を見下ろす。スーパー農道を朝日町から魚津に向かって走っていて、新川育成牧場の看板につい誘われて登ってきた。標高425メートル、牧場の広さは85ヘクタール。MOOガーデンレストランのベランダにひとりだ。さて次の約束までの90分、如何に過ごすか。9月14日午前10時過ぎ。

そこにトラックがやってきて、ヘリコプター相談所なる看板を立てる。30分後にヘリコプターがやってくるという。そういいながら、草刈機を取り出すと10メートル四方を、円を描くように刈りだしている。着地点をつくっているのだ。のどかな秋日和だ。

テーブルに取り出したのは読みそびれていた雑誌「ひとりから」。連載小説「ゲルニカの旗」(エッセイ‘時にはナイフを、尊厳を賭けて’参照)。更なる展開はさすがに読ませる。尊厳をかけて時には戦うことも必要と、いじめられた子どもにナイフを渡したことが新聞ダネとなった。学校が暴力の場となり、取り返しのつかない事態が発生すると父母が非難の声を挙げたのだ。僕は先生からもらったナイフは絶対に使わないと思う。信じてくれた先生に迷惑を掛けたくないから、それにこれを持っているとすごく強くなったように思う。ナイフを渡した担任の算数の授業。何と分数に4ヶ月掛けた。どうして分数というのがあるのか。なぜ足し算引き算で分母をそろえなければならないのか。そして作文の授業。小学校時代の思い出をいっぱい刻み込んでおく一冊の本を作る。それぞれ原稿用紙400枚。これは君たちが君たちをつくりだしていく言葉の創造なのだ、と説得している。そんな教室だから自治能力が備わっている。彼らは代わりの先生を拒否し、学級委員会を開く。新聞社に記事の訂正を求め、そうした担任の復活を求めていく。日本の教育を天動説から地動説に変えてゆくという。

読み終えると、蚊トンボのようなヘリコプターがやってきた。5000万円を5人で共同出資して購入した。5000円出せば会員となり、5分間の遊覧が楽しめる。1分1000円の計算で貸しり切にすることも可能。4人乗りでパイロットが要るから3人で30分遊覧して1人1万円の計算。操縦士になる方法は、と聞くと。沖縄にあるシアトル大学東アジア校にはいることがベスト。1年コースで388万円。四方山話をしているうちにすっかり打ち解けてしまった。

早めの昼食ということで、ミルクパン、クッキー、コーヒーそして特性のソフトクリーム。しめて495円。

ちょっとした空き時間をどう生かすか。そんなすき間の時間に、生きている幸せを実感することだってある。

さて余談ながら、合併論議でこんな中山間地は行政コストがかかるから、中山間地を抱える自治体と一緒になりたくないという論がある。視野狭窄もいいところだ。いじましさにあきれ果てる。どうかしている日本だ。

© 2024 ゆずりは通信