アルジャジーラ

湾岸戦争はアメリカのCNN、しかしイラク戦争はアルジャジーラ。テレビ報道の人気ぶりの定説らしい。アルジャジーラはカタールの衛星テレビ放送局。アラビア語での24時間ニュース専門。社員は600人で、イギリスBBC放送アラビア担当からの引き抜き組みが中核で、エジプト、シリア、パレスチナなどアラブ出身者が多い。カタールといってもわかってもらえないかもしれないが、首都はドーハ。前々回のW杯出場を決める最終戦での「あのドーハの悲劇」の舞台である。人口わずか69万人でハマド首長が率いる。このハマド首長、1995年に父親のハリーファ殿下がスイスに静養に出かけている間にクーデターを起こし、政権を奪った。ハリーファは堅実な国造りということでは有能であったが、ケチで蓄財好き、国内へのインフラ投資を怠って、とかく不人気であったという。その間隙をついたのが、長男で賢明で野心的なハマド首長。無血でこのクーデターを成功させ、翌年にアルジャジーラを開局している。旧体制の象徴のような検閲制度を廃止し、情報産業書なるものもつぶしてしまった。

この局を最も有名にしたのが、あのビンラーディンの対米聖戦を宣言するビデオを放送したこと。2001年9月11日の直後の10月7日、「アッラーはアメリカの急所を一撃し、もっとも大きな建物を破壊された。アッラーに賞賛あれ」が流れた。アフガンの首都カブールに支局があり、そこにこっそり届けられた。本部に連絡するとすぐに放送しよう、と決断は早かった。ビンラーディンも、ここに届ければ放送されると踏んでいたのであろう。後日アメリカを訪問したハマド首長にパウエル長官が厳重に抗議した。しかし、ハマドは「報道機関は完全に独立したものであるべきで、私は口出ししない」と突っぱねた。アラブ世界に民主主義をというアメリカのさかしまな態度である。一方でカタールは昨年末に、イラク戦の腹を固めた米国が強く望んだ軍事同盟を結び、米中央軍司令部を受け入れている。それでいながらこのアルジャジーラ、このイラク側に捕虜になった米軍兵士や、米兵士の遺体を放映し、イラク市民が傷つく映像を送り続けた。そしてバグダット支局が米英軍に誤爆?され、特派員1名が死亡、カメラマン1名が負傷している。

アルジャジーラのスローガンは「ひとつの意見があれば、別の意見もある」。「われわれは、自由な報道が持つ意義を職業人として追求しているだけだ。報道内容が正しいか、間違っているかは、ある一国の政府が決めることではなく、視聴者が判断することだ。非難されるのは慣れている。ある時はイラクの手先といわれ、またある時はアメリカの片棒を担いでいるとも、イスラエルの放送局ともいわれた。いわせておけばよい。われわれは事実を伝えるだけだ」ときっぱりしている局幹部である。日本製の最新デジタル放送設備が稼動し、社員は誇らしく、黙々と仕事をこなしている。

イギリスのブレア首相が空爆後、この局に出演し、イスラム教徒に冷静な対応を呼びかけている。そんなことを思うと、この国の安全保障は意外とこの放送局が担っているといってもいい。この国を侵略しようという国はこのテレビ局と対決しなければならない。何が何でも核兵器がなければ抑止力が効かないというものではない。国民にとって誇らしいものがあれば、それが最大の抑止力。このアルジャジーラはもし侵略されれば、その自由を死に物狂いで守り、その事実を伝える映像は全世界を駆け巡るに違いない。

このカタール、実は日本と関係が深い。原油も産出するが、天然ガスでは世界最大というノース・フィールドがある。天然ガスは気体である。これを運搬するためにはマイナス162度にして液化しなければならない。そして魔法瓶のようなLNG運搬船が不可欠。何とこの巨大魔法瓶タンカーは一隻300億円もするという。これらの資金を出し、安定供給元になっているのが日本である。名もなく、やさしく、豊かな日本の存在なのである。

NHKでも、民放キー局でもいいが、アルジャジーラと提携することを真剣に考えてみたらどうだろうか。その報道のアッケラカンとした自由も、ぜひ。

© 2024 ゆずりは通信