新発見!「関東大震災絵巻」

 色川大吉の歴史を底辺から見つめる「色川史学」がしっかりと継承されている。東京経済大学の色川ゼミで学んだ新井勝紘が21年2月25日、ヤフーオークションで「関東大震災絵巻 大正15年 肉筆 淇谷」を手に入れた。最初は目を疑ったが、2巻で30メートルを超える絵巻物で「時代を感じさせる素晴らしい一品です」「経年のスレ汚れ傷等が御座います」という出品者。果たして本物だろうかとも思ったが、オークションに参加する。3人でのデットヒートで、最初6万円の値踏みが97000円となった。もちろん身銭である。

 「関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く」(新日本出版社)。朝日の書評を読んで手に入れた。著者の新井は、国立歴史民俗博物館や高麗博物館での展示企画に携わる中で、「朝鮮人虐殺絵」の収集を始めた。関東大震災は朝鮮人虐殺抜きに語ってはならない。とりわけ国立歴史民俗博の常設展示では、文字だけでは訴え切れないと辛うじて液晶ビジョンで映像化できたが、直前にテーマ名から「朝鮮人虐殺」が消された。そんな思いが絵巻物収集につながっている。

 これまでは柳瀬正夢(やなせ・まさむ)のスケッチ画や、堅山南風(かたやま・なんぷう)の絵巻物があるが、淇谷(きこく)の手になる朝鮮人虐殺の現場描写はまるで近くで見ていたかのような出来栄えで大きな衝撃であった。朝鮮人かどうかを尋問される人びと、大勢に殺される朝鮮人。自警団だけでなく、警察・軍の姿も描かれ、虐殺が衆人環視のもと官民一体となって行われたことが、さながら「実況中継」のようだと著者はいう。早速、淇谷という画家をあらゆる文献から調査しているが確認できていない。いまは、幻の淇谷となっている。
 こんなひたむきな努力を笑うように、東京都人権部は10月末、外郭団体が主催する企画展で、アーティスト飯山由貴が朝鮮人虐殺を扱った映像を上映禁止とした。小池都知事が17年、朝鮮人犠牲者を悼む式典に追悼文送付を中止し、特別視することなくすべての犠牲者を哀悼したいとしたことに端を発する。大震災の犠牲者10万5千人と、虐殺犠牲者6600人は同列だという論理だが、竹やりで刺しぬかれた朝鮮人は、地震被害者と同じだから、自警団は加害者とならない。ホロコーストも、ヘイトスクラムはすべて免罪となってしまう。時代錯誤の歴史修正主義をいつまでのさばらせるのか。

 さて、著者の新井勝紘には、懐かしさを感じる。44年生まれの同世代。東京経大で色川の薫陶を受け、卒論は土蔵の中から自ら発見した「五日市憲法」で、岩波新書でも著している。精神史、民衆史、自分史といった歴史の向き合い方だが、学会などの権威に頼らないで、孤高ともいえる努力で刻み続けていることに心から敬意を表したい。なお、当時は家永三郎の授業が聞きたいと思えば、教育大に潜り込んで聞けた。色川大吉も同じで、みんなウエルカムだった。

 ところで、来年が関東大震災から100年でいろんな企画が展開されそうだ。森達也が福田村事件を映画化している。関東大震災直後、千葉県福田村で、香川県から来た薬売りの行商の9人が地元の自警団によって虐殺されたのが福田村事件。聞きなれない方言と行商団が被差別部落出身で、声を上げられなかったといわれている。これを機会に歴史修正主義と決別したい。「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目になる」

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