六花亭の苦悩

 いつもは折り込みチラシには目もくれない。そのままゴミ箱だが、なぜか目に留まった。「通販おやつ屋さん」のカラーB4で、あの六花亭である。同社のマルセイバターサンドはわが伝説と化している。千歳空港では間違いなく、何の疑問も持たず職場と家族分のお土産として買い込んできた。北海道旅行の終わりの儀式といっていい。その本社が帯広にあることを知ったのはずっと後のこと。池田町に移り住んだ義弟を訪ねた時、帯広空港に迎えに来て、ちょっと寄って行きましょうと広大な敷地に美術館も備えた本社に驚いた。創業は1860年の万延元年と古く、千秋庵と称していたが、1977年に六花亭と改名し、その記念に発売したのがマルセイバターだ。空前の大ヒット商品となった。「最上の原料を使うこと」「地域に根ざしたストーリーや季節感を現していること」がモットー。富山で和菓子の新製品を発売して勢いに乗る社長に聞くと、「六花亭が何といっても目標。北海道土産の定番となったマルセイバターのような商品をつくりだすのが夢」と話す。

 さて、その六花亭が全国にくまなく折り込みチラシを撒いたのである。コロナ禍での打開策であろう。9種類20個入って3000円。ジジババ需要を想定している。加えて、全国一律クール便で200円だ。義弟好物の鱒ずしの送料に、北海道はやはり遠いと思い知らされるのだが、これだと九州・沖縄の人も手が伸びる。千歳空港で飛ぶように売れていた情景が思い浮かぶが、どれほどの注文が舞い込むのだろうか。

 六花亭に限らず、安定的な売り上げがあっという間に消えて、ゆとりのある企業も時間とともに追い込まれていく。従業員を大事にして、地域憧れの就職先となれば、おいそれとレイオフというわけにはいかない。多くの成功例を持つがゆえの苦悩が社内を重苦しくしているに違いない。こうした苦悩は全国に渦巻いている。

 富山北部にあるブックスなかだ奥田店が8月末で閉店した。9月9日立ち寄って覗いて見ると、まだ書棚に本が数多く残されている。取次に返品されても、送料コストが勿体ないからそちらで処分してということだろう。再販価格を維持するための委託販売だが、もう限界にきている。出版社の倉庫には返本が山のように積まれて、片っ端から断裁を待っている。ここの家賃が月100万円ということだが、これに人件費、光熱費と固定費がかさむのだから、閉店しか選択の余地はなかった。一方ここのオーナーは次なるテナントは容易に見つからないので、家賃収入を失って固定資産税を払い続けるしかなくなる。

 どう乗り切るか。国の実体経済を表す指標として国内総生産(GDP)がある。これはGDP=個人消費+設備投資+政府支出+純輸出、という構成。このうち個人消費、設備投資、純輸出は消費税増税とコロナで、六花亭やブックスなかだを塗炭の苦しみに落とし込んだ。残るのは政府支出だけとなる。この政府支出で個人消費を回復させ、設備投資に仕向けさせるしか方策はない。しかも待ったなしの状況である。そうであれば、消費税減税と国民一律10万円支給を回復が見込めるまで繰り返す実質ベーシックインカム(所得補償)。この政策しかない。ここで後世代に負担を残すという財政規律を持ち出すのは、国民を見ていない。

 更にわが持論である。ボランタリー経済で、コミュニティビジネスを活性化させ、コミュニティでセイフティネットを構築する。六花亭の帯広本社に老人ホームができ、ブックスなかだ奥田店が子ども食堂を兼ねた子ども図書室に変わる。カネだけではなく、民衆の創意も生かしていこう。

 時代の分かれ目でもある。富山県知事選はボランタリー経済を実践してきた川渕映子さんの政策に期待したい。

 

 

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