とくし丸、再考。

 仮説を思いつかないと前に進まない。その仮説に容赦ない批判もあるが、膝を打つ秘策も寄せられる。そんな繰り返しで仮説が磨かれ、誰かがリスクを取ってみようか、となる。問題は考え続け、キャッチボールを続けることにある。「移動スーパーとくし丸」の続編となるが聞いてほしい。
 先月京都に旅した時、近鉄京都駅ホテルに泊まった。さんざっぱら呑んで帰ったのだが、寝酒は別腹ということで、ホテル前のコンビニ・近商ストアに立ち寄った。ビールとつまみを求め、レジ横に目をやると、「とくし丸(オーナー経営者)募集!」チラシが置かれている。これも何かの縁、読みながらの寝酒となった。近商ストアは近鉄グループに属し、大阪・奈良・京都で展開、年商650億円を売り上げている。ということは、過疎というイメージで捉えていたが、都市圏での買い物難民対策でも通用しているのだ。過疎地では所帯当たりの売り上げは小さく苦労していると聞いていたので、展望が開ける。地域スーパーとの取引条件もチラシには明示され、粗利30%のうちオーナー経営者であるとくし丸の取り分は17%。月間売上250万円として42.5万円が入ってくる。お客が1品あたり負担する10円は約1万品として10万円をスーパーと分け合うので5万円が加わり、諸経費10万円を差し引いてほぼ35万円がとくし丸オーナーの所得になる。近商ストアはとくし丸本部に契約金、ロイヤリティを支払い、ブランド、ノウハウ、情報提供など受けている。ここまで仕組みが明らかになって、眠りについた。
 翌日の大阪だが、阪神百貨店の日本一といわれる地下食品売り場を見て、都市圏の裕福層はとくし丸の商品構成だけでは満足しないのではないか。この層の食へのこだわりは強く、多少高くてもおいしいである。さすれば、百貨店地下の高価格品も視野にはいっていい。とくし丸はオーナー経営者だから、もっと客のニーズに合わせた自由を発揮していいのでは、となった。ネットでの注文に応える御用聞きであれば、売れ残りリスクからも免れる。配達も裕福高齢者であれば、在宅時間も長く問題はない。とくし丸にこだわらず、とやま丸でいいのではないか。模倣であるが、仕組みは大きく異なっているので許されると思う。
 老人の妄想はどんどん広がっていく。富山では2つのスーパーがしのぎを削っている。その隙間を狙わざるを得ない他のスーパーは価格、品質で差別化を図ろうとするが、客層は高齢化し、移動に不安があり、来客数が漸減している。成城石井の商品も並ぶが動きは芳しくない。一方、客層とみなしている高齢富裕層に聞いてみると、それはいい、ぜひ利用したい、すぐに始めてよ、という。そのとやま丸に出資してもいいし、近所で顧客を紹介してもいい、とも。とやま丸の月売り上げを200万と設定し、客数は月4万円として50軒。週1回の訪問で月200回、毎日8軒の訪問と仕入れとなるがこなせるだろう。
 30代に届かない若者に、移動スーパー・とくし丸での起業もあるぞとさりげなく助言していた。その青年の最初の就職は親戚筋の製造業だった。息が詰まるような職場環境にうつ病に近い状況となって離職となったのだが、アルバイトで手伝った呑み屋が接客含めて性に合っていた。この話を目を輝かせて聞いていて、いざ砺波で実際やっている人に会ってみようとなった。しかし、親に350万円の出資を含めて相談したところ猛反対され、再び三交代の製造業で、となってしまった。安定という壁も難しい課題で、最大の難問かもしれない。
 はてさて、仮説は妄想で終わってしまうのだろうか。どこの企業も、どこの誰も、将来不安だけを口にして希望を語れなくなっている。閉塞を打ち破る、原口や乾のようなシューターの出現が待たれるのだが。

© 2024 ゆずりは通信