「万引き家族」

 請け売りだが、世の中の仕組みがそう動いているのだとわかる。カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを獲得した「万引き家族」だ。公開から2週間で178万人の観客を集め、興行収入21億7千万円に達した。この2週間に意味がある。今やスクリーンのシェア8割を持つ東宝が映画市場を支配している。映画配給を武器にイオンなどに取り込んでいき、シェアを確保した。一面、不動産業でもある。映画を掛ける権利は当然東宝が握り、2週間分の売り上げの7割を東宝が受け取る。ちなみに2週間を過ぎたら50%となるのだが、賞味期限はほぼ2週間で、一番おしいところ。山田洋次の「家族はつらいよ」は1日5回上映だったのが、あっという間に1回となったように、動員数を見て、冷徹に切り捨てられる。今回の興行実績配分は東宝に15.2億円、是枝裕和監督の制作側は6.5億円ということになる。汗を流していることからすれば、逆であってもいい。東宝も、松竹も映画製作から手を引いている。そのあおりで元木克英・映画監督もフリーになった。売れるかどうかわからない上に、企画から制作への過程は、とんでもないエネルギーを要して割に合わない。制作は制作側でリスクを取ればいいという考えである。背景には誰でもすぐに作れるデジタル化の流れがある。プロとアマの差がわかりづらく、ご当地映画という駄作であふれかえっているのが現状。クラウドファンディングでいくらでも集められるのだから、その範囲でやればいいという風潮だ。フイルムでの映画制作は、まるで伝統遺産のように山田洋次だけに許されている。松竹も寅さんで助けてもらったこともあり、罪滅ぼしと考えているようだ。
 この東宝シネマズも、ほぼ90年前に小林一三が東京宝塚劇場を設立したことに始まる。甲州商人の血を引く小林の才覚は、阪急沿線での宝塚歌劇、関西学園、六甲高級住宅などでいかんなく発揮された。そのDNAを受け継いでいるのであろう。映画が斜陽に転じて苦しむ中で、米国発のシネコンスタイルは外資系がその先鞭を付けていたが、それを買収して軌道に乗せた。それは大型スーパーの集客に格好だったことから、娯楽から商業、不動産と結びつき、ダブル、トリプルインカムを狙う究極の商人発想となった。しかしどんなに強力なビジネスモデルであっても、永久に勝ち続けることはできない。映画観客数は減り続けている。強権だけでは乗り切っていけない。
 こんな痛快なエピソードも付け加えておきたい。官邸はパルムドール受賞に全く反応しなかった。是枝があちら側の人間という判断である。これを国会で質問されると、文科大臣は招いて祝意を伝えると答えたが「公権力とは潔く距離を保つ」と監督は辞退を表明した。官邸は助成金を受けとっているのに、その態度は何だ、という思いだろう。朝日新聞(6月25日)の是枝インタビューが味わい深い。「世の中分かりやすくないよね。分かりやすく語ることが重要ではない。むしろ、一見分かりやすいことが実はわかりにくいんだ、ということを伝えていかねばならない」。
 ぜひ、観てほしいのは、6月22日封切の「焼肉ドラゴン」である。

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