空き店舗の予期せぬ展開

 87歳と76歳の姉弟が相続した店舗をどう始末していくのか。重しのようにのしかかっていた。戦後引揚者住宅からやっとの思いで手にした最初の住宅で、その後衣料品店として改築新築を重ねてきた歴史がある。子供たちからは、取り壊すカネを渡されても、切羽詰まったら生活費にまわすこともあり得るし、生きているうちに何とかしていってくれ、と最後通牒のように突き返された。2019年に明治期に建てられた母親の実家を、法定相続人10人で調整を繰り返して何とか取り壊し、更地を売却することができた。時期を逸していくと、法定相続人が増えていくばかりで、解決は遠くなるばかり。さりとて、このデフレと少子化の中で、買い手があるとはとても思えない。といって、手をこまねていても状況が変わるわけでもない。とにかく動いてみようとなった。

 そんなさ中に、息子の友人で八尾町の「はちみつ不動産」をひとりで切り回す若き経営者が出現した。公務員となったがとても合わないと辞めて、独学で不動産業を学び、起業している。若いながらも、手堅さと積極さがバランスよく備わっているようだ。6月9日、新湊の現地を確認したいとやってきて、その場で専任媒介契約書にサインした。はちみつ不動産を通してしか売らないというもの。すぐにアットホームに掲載するという。価格はどうします?と迫るので、「取り敢えず、50万」と返した。「思い切りの良さは、さすがですね」というが、時間を掛けたくない当方の思いが前面に出たのであろう。価格というのはすべてを表現する。あれもこれもと欲張ってはいけない。掲載されたのが14日で、アットホームで「射水市、店舗」と検索すると、価格、写真、間取り図が出てきた。果たして、どんな反応があるかと思っていた矢先に、ぜひ見たいという人が現れた。16日午前に立ち会ったが、ざっと自分の眼で家内を確認すると、「買います、できれば月内に契約したい」となった。驚くべき展開である。買い主はどんな使いみちをイメージしているのだろうか。

 数年間思い悩んできたことが、あっという間に解決しそうになったということ。若き不動産屋の出現もあるが、アットホームという不動産プラットホームが潜在的な需要を見つけ出したのが大きい。前回綴ったレント資本主義が圧倒的な存在感となって、実感させられた。行政の空き家対策も、やっている感だけでは解決に行きつかない。

 さて、一般論に移ろう。生活を支える衣食住だが、とりわけ住が生活福祉の基本である。住宅政策は戦後一貫して自己責任とされ、30代で建て、ローンを終えてしばらく住んで、次世代が新改築するという循環シナリオであった。これが大きく破綻している。長寿化、少子化、雇用の不安定化が立ちはだかる。加えて、住宅の取り壊し廃棄処理能力が限界に来ている。処理費用の暴騰は想像を絶し、2年前に取り壊した五福小学校の処理費は3億5千万円だった。新築と変わらない。100年持つ集合公営住宅と短絡できないのが、この問題の難しさ。資本主義下での幅広い選択肢のある住宅政策を練りあげていこう。

 参院選の告示日だが、ぜひ立ち止まって考えてほしい。

 

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