今こそ、ベーシックインカム

 初めてアメリカに渡ったのは1975年の8月末であった。30歳の区切りでもあり、自分に投資する意味でニューヨーク5日間というジャルパック。旅費35万円は車を売って用立てた。1ドルは300円前後で、思い切りが必要だった。時間を惜しむようにニューヨークをくまなく歩いた中で、印象に残ったのが五番街のGAPの店舗。洗練されたデザインとうず高く積まれた陳列に圧倒された。ユニクロの柳井正もこの前後に、GAPを見ている。山口県宇部に構えている紳士服専門店の、目指すべき目標となった瞬間でもあった。同じ衣料品店を経営する家に生まれて、この差である。問題意識の差であるが、自分の置かれた立場でどう問題を立てるか、これがすべてを決めていく。彼は49年生まれの4歳後輩となるが、当時の四日市・ジャスコ(現在のイオン)にしばらく席を置いてから、店を継いでいた。洋服の青山やアオキの郊外型紳士服チェーンの隆盛を目の当たりにして、違うカジュアル部門で打って出ようと目論見、91年から急成長を遂げることになる。

 日経は1月13日朝刊で柳井正のロングインタビューを掲載している。ある業界の常識を壊した企業が、新たに生まれた破壊者に変化を迫られている。つまりデジタル時代を席巻するアマゾンにどう対応していくのか、を記者は問う。小売業はなくなる、と柳井は即座に断言した。これからは情報産業とサービス業だけになる。既に製造から小売りまで一体化したがそれでは足りない。デジタル化は消費者個々人の嗜好を生産に直結できる可能性を持つ。顧客の欲求をそのまま製造につなげていくしかない。顧客のためにならない企業は淘汰される。それが世界レベルで進む。現在の店舗はほとんど必要とされなくなり、すべて建て替えないといけない。渥美俊一が60年代にペガサスクラブで主導したチェーン化時代は終結したのである。本庶佑教授を挙げながら、社員にはAIの導入を考える前に、自分の頭脳を鍛えてほしい。AIにはまねのできない意味を理解し、適切な質問ができる人間にならないと使いこなせない。柳井も、どんな問題意識で仕事をするかがポイントだと指摘している。

 闘志がみなぎり、意気軒高だが政府批判も厳しい。オリンピックや万博もいいけど、社会インフラを新しくすることからお金をかけないと。アベノミクスも株価を上げることだけ、日本は服に限らず消費していない。経済のことは何もやっていない。最悪なのはゼロ金利。国民と企業の資産を担保に政府がカネを借りまくって、選挙民におもねっているような構図だ、と舌鋒鋭い。

 すべての産業を飲み込むアマゾン・エフェクトは想像以上のダメージを与えている。リアルな店舗に投資しないということは、店員を必要としない。ユニクロは既に英語を公用語としているので、経営幹部も日本人に拘らない。百貨店、専門店、スーパーなど小売りが雪崩を打って総崩れになるということ。先日あった自治体の団体職員採用に銀行員が多かったとも聞く。ここは政治の出番であろう。

 森永卓郎の「なぜ日本だけが成長できないのか」(角川新書)を引用する。今後人間がやらないといけない仕事は、創造的な仕事が中心とならざるを得ない。創造的な仕事は、もともと所得格差が大きいし、収入が不安定だ。窮乏化理論がそのまま現実となろうとしている。国民の健康で文化的な生活を守るためにも、ベーシックインカムの導入を政策の視野に入れよう。すべての国民に月額7万円を無条件に支給する。思い切った政策転換を知恵と勇気で考え抜こう。

 さぁ、明るく大きく、討議を始めるのだ!。

 

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