国際テロリスト群像?

9月10日深夜、ボストンの高級マンションの一室。3人の男は静かにワイングラスを掲げた。いずれも50歳台後半というところか。人生の裏道を止むを得ずに歩かされてきた濃い陰翳が表情のどこかに。5年越しのプロジェクトがいよいよ明日実行される。綿密に練りに練り、完璧に近い形でやれてこられたことの満足感がテーブルの周囲に漂う。もちろん、危ない場面も多かったが、どうにか潜り抜けてくることが出来た。この3人にそんな感傷は無用であることはいうまでもない。いよいよ夜明けを待つばかりだ。このあと、3人は再び顔を合わせることはあるまい。

5年前。それぞれの組織から、この秘密アジトに行くように指示があった。テロの戦略、戦術、技術とも最高レベルのものと指名されてのもの。テロの最高のものを目指すというわけだ。3人はその連絡に携帯、インターネットなる手段は使わない。アメリカの諜報部門に筒抜けになるのは自明のこと。よしんば使用するにしてもそれは相手を撹乱させる時だけ。細心の注意を払い3人は日常的に目立たぬように連絡をはかり、コンピュータを駆使して全知全能を傾けた。

ひとりは中国人である。文化大革命の辛酸をなめ、天安門事件で米国に亡命。MIT(マサチュセッツ工科大)で物理学を専攻、ノーベル物理学賞の候補にもなっている。趙紫陽に連なり、江沢民とは肌合いがまったく合わない。いつの間にか法輪功に近い反政府組織に属すようになっていた。

いまひとりは日本人。全共闘で挫折し、一時期関西系の暴力団に属した。警察権力への意趣返しというべきグリコ事件を演出した。その後米国に渡り、ハーバードで金融工学を専攻。日系金融企業のコンサルタント補助と称して、いわばブラックマネーのロンダリング(清浄化)を業としている。今回も人知れず航空、保険株の空売りを指示している。かつての義理もあり、いまは極左集団といわれる組織に属している。

あとのひとりはサウジアラビア国籍を持つ男だ。アラブ系らしいひげが強い意志と知性を思わせる。この5年間、イスラムについて口にすることはない。

ストップ!ここまで。ああ苦しい苦しい。何という想像力の貧困なことか。高村薫には足元にも及ばないことがよくわかった。ミステリー作家はこのテロをどう推理しているのだろうか。

意外にビンラディンの関与も少ないのかもしれない。ケネディの暗殺でも、ついに真相はわからなかったではないか。アメリカは、表向きの単純さとは裏腹に、その背後に不気味なものを感じさせないではおかない国。

さて、老残のテロリストなるものに魅力を感じるのだが、どんなものだろう。もちろんハイテクやサイバーには縁遠く、一人一殺。天誅を与えなくてはならない本当のワルが、大手を振って永田町界隈を闊歩しているような気がする。もちろん一殺後は服毒して果てることはいうまでもない。

これではまるで平成唐獅子牡丹ではないか。お粗末。

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