「えんとつ町のプペル」

 30万部を超えている絵本である。著者というべきか監修というべきか、迷うが芸人の西野亮廣(にしのあきひろ)が手掛けた。80年の生まれだから37歳。高卒で吉本に入り、漫才のキングコングで活躍しているが、25歳の時に迷うこともありフラフラしている時に、タモリに銀座のバーに呼び出され「お前は絵を描け」と決めつけられて、絵本ならと応じた。1作目の「Drインクの星空シネマ」は4年半要している。そして「えんとつ町のプペル」(幻冬舎 2000円)は4作目にあたる。

 「夏休みのプペル展」と称しる富山県内の巡回展は、西野の呼びかけに応じてクラウドファンディングで運営費を調達して展開された。それぞれの地域では他のイベントともコラボさせて予想以上の成果を得ていた。というのも地域の開催権(15000円)を取得すると、そこの入場料はそこの開催権者に入るので、才覚が発揮されるのである。7月30日、富山・太閤山ランドでトークショーを開くというので出かけた。前売り2000円、当日3000円にしては、ざっと300人を越える動員である。本の販売といい、動員手法といい、そこには彼流の仕掛けがあり、そんなサクセスストーリーに何かをつかみたいという若者が参加している。

 どんな仕掛けなのか、芸人に限界を感じた若者がどのように転身を図っているのか、紹介する。絵本はひとりで描くということに疑問を感じていた頃に、イラストに特化した人材を集めクラウドソーシング(外注受託)をしているトップに出会い、これだとなった。プペルの構想は以前から持っており、描く作業を分業することで時間が短縮できる。しかし確実の制作コストがかかる。そこで得意のクラウドファンディングで資金を集めるのだが、できた本をプレゼントするという妙手も。そして全国の巡回展には必ず本の販売をすることを条件とした。本は並べるだけでは売れない。演劇を見ると高いパンフを必ず買うように、観光地の土産もそうだが確認作用として人は買うのである。トークショーが終わると早速列が出来ていた。

 トークが終わって若者がひとり質問をした。新しいことに挑戦したいといつも思っているが、何かヒントになることを教えてほしい。まずお金の正体だが、ホームレス小谷を例に話をしたい。彼は自分の1日を50円でネット上に売り出し、これで生活をしている。まる1日だから1万円といいたいところだが徹底してこれを貫いている。そのカラクリだが働かせる方は、これだけやってもらって50円では申し訳ないとなって、お昼をどうぞ、夕ご飯にこれをどうぞとなり、寂しい爺さんは軽く呑みに行こうよと誘う。小谷は金持ちではなく、信用持ちだということ。それとダイエットして3キロ減量するとかで、食事から友人まで従来と違う環境を選ぶのもいい。異質な人やモノを結び付けるのを編集作業というがこれがポイント。自分の家をたまり場にして、それが無理ならカフェとか、いろんな人間が集まって話を聞き、そこから必ず生まれる。赤塚不二夫さんのところに居候していたのがタモリであり、所ジョージで、だれでもいろいろな経験や知識を持っている。

最後にこのプペルを映画化し、ディズニーを超えるのだと豪語していた。ビートたけし、サンマ、タモリを超えることは難しいし、また超えようとする愚かさを悟ってのもがきといったところだが面白い。

さて、我流のまとめである。ひとつは異質なものを結び付けていく編集感覚、そしてクラウドファンディングとクラウドソーシングという潜在的なお金や才能を使いこなすIT感覚、カネに支配されない信用持ちという楽観的なセンス。SNSを通じて、また実際会うたまり場での交流を大事にする。

時代は大きく変わろうとしている。決して政府のいう働き方改革に期待しないことだ。現場、現実を見据えて、空論に惑わされず、自分の人生は自分で切り開くという気概こそ大事。そういう小さな気概が集まって時代が動いていくことを信じたい。求む!1日50円で我が家の雑草取り。

© 2024 ゆずりは通信