ドン・ホセと新相馬共和国

自称ドン・ホセという。この男、数奇な人生を歩んでいる。高校時代の初々しさは完全に失せて、風貌怪異といっていい。頭は禿げ上がりのスキンヘッドで、ずんぐりむっくりの典型的な中年おじさんになり下がっている。岩瀬中学、富山中部高校、早稲田大学政経学部と、写真館を経営する母親の期待を一身に受けての前半生。公務員の父親の存在感は露ほどもない。一粒種である。就職先がスポーツニッポン。越中さの忍耐力で7年は頑張ったが、スポーツ芸能紙の軽佻浮薄についていけずに遂に退職。何を思ったか売薬で身を立てることに。これが高度成長もあり、狙い目を原発工事現場にしたのが当たった。本人は天性の商才というが誰も信じない。福島県いわき市に、太平洋を望む新居を構えるまでになったのである。しかもゴルフ会員権3つも所有している。しかし寵愛してくれた母も、囲碁三昧で男やもめを過ごした父も今はもう亡く、天涯孤独の身である。典型的なマザコンで、小学校時代の初恋の相手がいまだに忘れられない。大学時代はギター研にのめりこみ、今は誰もいない家で、手すさびにギターをかき鳴らしている。そのギターも数百万はするスペイン製の逸品。わが結婚式に駆けつけてくれて、新相馬節を切々と歌い上げてくれた。孤独死すると、押入れのポルノビデオがどうなるのかが唯一の心配事。

おっと今回はこの男の話ではない。この男が住むいわき市だ。1999年に14市町村が合併して誕生した。人口36万人、面積は富山県のほぼ1/3で、日本一広い町という。中核市として鳴り物入りでの合併であった。しかしその実態はどうか。地方交付税約250億をもらい、旧市町村にそのまま支所を張り巡らし、職員もそのままなら、意識もそのまま。何もかもそのままで、名前が変わっただけなのである。一方の最優良自治体・豊田市はどうか。人口は34万人とほぼいわき市と同じで、地方交付税ゼロである。極端かもしれないが、この落差をどうみるか。うまいことしている、と見るのかどうか。そんな奴隷根性で市町村合併が行われようとしているのが現状である。

それにしても、昨今の合併論議は常軌を逸している。慌てふためいて、地に足がついていない。いっそのこと、1県1市ですべてが県庁所在地というのはどうだろうか。

福島県といえば会津藩。戊辰戦争での会津の悲劇をみると、もしこの合併論議に乗り遅れたらとあらぬ恐怖に駆られている首長もいるかもしれない。あなたのところは合併を拒否されたのだから、国や県に頼ることはないでしょう。交付税も返上されたらどうですか。想像するも厭らしい薄汚い人間がゾロゾロ出現するのである。囲い込みと強制、そして見せしめとしての徹底したいじめと差別。あの戊辰戦争以来変わらない風景である。国歌国旗法案も現実はそうなっている。わが祖国の悲しい性である。この性根を正さない限り、あらゆる改革は無理である。良心的な首長はハムレットのように悩んでいる。毒を食らわば皿までもと、ビジョンもヘッタクレもなく、真っ先に合併に手を挙げる首長も。日本の地方自治はいったいどこに行き着くのか。

ドン・ホセよ。一緒に日本国から独立して、新相馬共和国でも樹立しよう。その時はドン・ホセ、お前が大統領だ。

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