師走断想

何したというわけでもないが、もう師走である。●あわただしさが増したような富山駅前。タクシー値上げの余波か。料金を据え置いた愛交通だけがピストン輸送の状況を呈している。最大手富タク傘下に入った電タクが、いつも愛交通が客待ちをする場所に数台並んでいるので仕方なしに乗り込む。「深夜割り増しも、値上げも当然とする富タクは、利用者のことは念頭にないね」というと、旧料金並みでいいからと、自宅1キロ前でメーターを倒してくれた。傘下に入ったといっても、給与水準は元のまま。雇用が維持されるだけで十分だろうということ。資本だけの論理で、働くもの同士の連帯など遠い話だ、と問わず語りに話してくれる。●居酒屋でのこと。広告代理店に働く顔見知りの若者と話す。個人の売り上げ目標がきつくて、みんな自分だけで精一杯だから、職場がギスギス。そこに老舗呉服店の倒産焦げ付きが発生。ホールディングから数人が駆けつけて来て、厳しい責任追及が。売り上げ達成か、断念しての安全策か。子供ができて冒険は出来ない、家族への責任は果たしていかねばならない、と。最近は環境をテーマに営業しているとのこと。「スーパーのチラシの携帯情報化はどうか。チラシの予算を消費者に還元すれば、ウィンウィンが成立するのでは。加えてフェリカなど携帯での決済が進めば、レジの込み具合も改善されることになるぞ」と現役に返ったように持論を展開。若者の苦悩をよそに、不謹慎ながら久しぶりの快飲であった。●起き上がれず、ベッドから離れられない。そんなメールに慄然としてしまう。「他者の苦しみを苦しむことはできない、隣人の痛みを痛むことはできない。絶対にできない。慈しみや博愛の沃土にかえって孤絶の悪い種子が育つ。そのことを沈黙の海でみとめることからしか、関係の喜びは生まれはしない」。辺見庸は「たんば色の覚書」でこんな風にいう。60歳の分別は沈黙を選ぶしかない。祈ることさえも偽善の臭いがする限り、孤絶の芽を生み出すのだ。「狼だ、狼だ」と、人間を壊すような機関車が、世の中を傍若無人、縦横無尽に走り回っている。せめて冬の間だけでも減速してくれないものか。冬季うつ。そんなもの返り討ちにせよ、と無神経な痴れ者が酒気帯びた声で叫んでいる。それでも、小さな声で祈る。「イ・キ・ロ!」。●ハングルが60男の記憶の網に引っかからない。「アヤオヨ・・・」「カナタラマパサ・・・」と声を所構わず挙げ、小倉紀蔵のハングル講座CDを必死に聞いている。ところが、テキストを読もうとするとすぐにひっかかる。もし、期末試験とかが実施されれば、おそらく29/30は間違いない。隣の席の女性は、名前を聞くと、すぐにノートにハングルで書き留める。何とも悔しい。それではと、シーズンオフでもあり、格安3泊4日のツアーに挑戦することにした。しかし悔しいことに、シングルのハンディだ。シングルユースのホテル料金が嵩んで、結局は二人分とかわらない。ハングル研修パートナーを見つけるのが近道だが、こればかりはどうにもならない。3年後にハングルを駆使して、できれば数ヶ月は向こうで生活したいと思っている。●「海の色が変わった」。今の米国の現状を見て、大きな潮の変わり目ではないかと指摘するのが、田淵節也野村證券元会長だ(日経・11月30日)。何か胸騒ぎを覚えるという。中東情勢の混沌に加えて、サブプライムに象徴される経済だ。軍事力にかげりが出れば、ペーパーマネーのドルの信認は低下していく。現に、米国の金融危機は日に日に悪化し、連銀は金融機関を救うためドルを大増刷しており、石油代金の決済を防衛上ドルにせざるを得ない産油国を中心に、世界的なインフレは現実のものになろうとしている。バブルの時にやはり、「海の色が変わった」と直感した田淵の言は的を外してはいない。金や原油、穀物などの実物資産を裏づけとした新しい通貨制度を考え出すのでないかという。国会は、イラク特措法問題を奇貨として、大きな議論をする絶好の機会だと思うのだが、相変わらず。●時代の変わり目は間違いない。ちょっと外に出て、とにかく自分の眼で観察をしよう。先日ある会議で、四面楚歌になったが、確信があり、いまに分かるから、と余裕だった。

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