センチメンタルジャーニー

 前回に続く。認知症の姉と東京一泊旅行を試みた。萎縮する脳内の海馬に刺激を与え、何とか昔日を取り戻したいというあがきでもある。15日北陸新幹線で東京駅に着くと、「さあ、仕入れに行こう」とタクシーに乗り込み、繊維問屋が集まる日本橋横山町を目指した。50年間衣料品店の切り盛りをしてきたが、何といっても仕入れが肝。限られた時間にひとりで買い付けなければならない。真剣勝負である。案の定というか、店に入るやいなや、商人モードにスイッチが入った。セーターを手に取るや、この色違いを見せてと3点ゲットし、奥に入るやフード付きのベストがかっこいい、とこれも3点。まるで現役に戻ったように目が輝く。無駄になるかもしれないが5万円程度で、気を取り直せるとしたら安いもの。しかしこの荷物が届いたら、買った記憶もなく無駄になることは間違いない。

 もうひとつ、普段履く靴を求めることにしていた。新宿の伊勢丹へ行こうといったら、快諾。地下鉄での移動は無理なので、ここもタクシーとしたが、これも幸いした。市ヶ谷辺りで母校・山脇学園を発見して、西荻窪の木造一間の下宿から通った思い出を話してくれた。伊勢丹2階の婦人靴売り場はかなり混んでいたが、実直そうな店員を見つけて頼んだ。初めて、靴選びの難しさを思い知らされた。デザイン、色、サイズに加えて靴底の厚さなど注文は多岐にわたる。店員はその都度バックヤードから、取り出してくる。小1時間もやり取りし、ようやく決まる。価格は35,200円。膨大な在庫を抱えて、接客の難しさ、ストレスを考えると、高い買い物ともいえない。

 昼食だが、多少疲れたこともあり、伊勢丹地下の「虎屋茶寮」を思いついた。抹茶とお汁粉のセットだが大正解だった。疲れを癒すお汁粉の甘さ、小ぶりの餅も胃に心地よくおさまり、お茶の心得のある姉は手慣れた所作で抹茶を飲み干した。ふたりで5060円。高いといえば高いが、非日常と思って納得。

 伊勢丹には私にも欠かせない用件がある。メンズ館8階にあるフォーナイン(999・9)で、眼鏡の調整をしてもらう。現在の眼鏡を求めたのは2008年で、10万を超えるものだった。機能と品質が素晴らしく、掛け心地は他を寄せ付けないし、14年経ても何ともない。上京する度に調整と称して立ち寄っているが、丁寧で、しかも小さなねじなどの取り換えも無料でやってくれる。こちらが申し訳ないと思うほどである。調整の記録も保存されていて、近々に新調を決めているが、この店以外で買うことはない。

 姉弟のセンチメンタルジャーニーは期せずして、商いとは何かを探るものになった。高岡の繊維問屋の女将は、昼時におにぎりを並べて、「お疲れ様、どうぞどうぞ」とふるまっていた。一個食べると、もうひとつ買っていこうとなった。商人道は奥深い。しかし、あらゆる卸小売店が閉店の危機を迎えている。

 きょう10月21日は、日赤高齢心療科での診察日である。これから介護の本番が始まるといっていい。

 

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