講談社は、この本の出版を断念した。日本語版の原稿はほぼ完成していたというが、著者の態度に「版元と著者との信頼関係を保つことはできない」との判断からだという。これが2月16日のことだが、3日前の13日に、日本政府は事実誤認や侮蔑的な記述があるとして、在オーストラリア大使を通じて、著者と出版社に対して抗議文を送っている。また、宮内庁の渡辺侍従長も、事実誤認部分を指摘し、回答を求めている。この動きに講談社は脅え、屈したといっていい。そして、日本語版ではもう読めないのではと思われたが、9月1日には書店に並んだ。
「プリンセス・マサコ」(第三書館 1800円)。著者は豪州人ジャーナリストであるベン・ヒルズ。原題は「Princess Masako: Prisoner of the Chrysanthemum Throne 」。オーストラリア版で昨年出版されている。副題の訳は「菊の王座の囚われ人」で,日本の皇太子妃の悲劇的実態と続いている。アマゾンの洋書部門売り上げで際立っていたという。
飛びついたのは第三書館だった。菊を恐れない出版社ということになる。北川明社長は元新左翼の活動家で、住所が新宿区大久保2丁目というのも、異質なものを感じさせる。否定的に勘ぐっているのではない。一度はみ出してしまった人種は、正業で立ち向かっていくには、出版かITぐらいしかないのだ。この社が、著作権切れを狙って「ザ・漱石」などの作家シリーズを企画した時は、なるほど元新左翼のビジネス発想と感心したものである。小さな異端の出版社に、どんな経緯があったのか、明らかにしてほしいものだ。
更に難関が待ち受けているのだ。この本の広告掲載拒否である。朝日新聞に持ちかけたが拒否され、他の新聞も右倣えという。恐らく書評も期待できない。
そういえば、雅子妃誕生までの実状、体外受精による妊娠、皇太子妃の鬱病などの報道はすべて外国メディアからもたらされたものだ。宮内庁御用達のジャーナリストはどうしているのか。皇室報道は120%の正確さが要求されるのだとして、記者発表を待つだけの受け身取材で、手持ち無沙汰なのである。彼らの属する社のトップも特ダネなど望んではいない。なぜなら、そこでの失敗は、記者だけに限らず、トップの進退に直結するからだ。
やはり思い起こされるのは、04年5月の皇太子の記者会見である。「雅子のキャリアや、人格を否定するような動きがあったことも事実です」。この発言を機に、さすがの御用達連中も、宮内庁バッシングに動いたが、本質的に皇室改革とはならなかった。
翻訳した藤田真利子は、この本を「ある人権侵害の記録」として読んだという。精神科医はこう警告している。彼女の鬱病の引き金となった環境、つまり黒衣の男たちに生活をがっちりと支配されていることが変わらなければ、「治癒」を語っても意味はない、と。
ベン・ヒルズは、自殺という考えてはならないことを除けば、可能性は3点にまとめられるとして、?離婚する、?皇室から逃げ出す、?宮内庁を改革する、を挙げている。
最も現実的なのは、宮内庁改革だと衆目が一致するはずだ。皇族23人の面倒を見るために、宮内庁職員は1080人いる。シェフ25人、運転手40人、庭師30人、考古学者30人、医師4人などだ。この行政改革こそ一石二鳥といえる名案だと思う。
さて、この情報の入手先を明かしておこう。“なだいなだ”の老人党公式サイトにあるコラム「打てば響く」からである。老人党結党以来、愛読している。「ぼくが口コミで宣伝します。とても面白い本です。どうしてこんなことが日本人に知らされてこなかったのか。深刻に考えてしまいました。決して皇室を侮辱するような、志の卑しい本ではなく、批判的な部分があっても、愛情のこもった視線からの批判です。厳しいのは宮内庁に対してです」。
われらが手で、何が何でもベストセラーに仕立て上げたいものだ。
「プリンセス・マサコ