『最後の「天朝」』

 中国の歴史家が手に入る各国の一次資料ふんだんに使って、毛沢東―金日成時代の中朝関係を描いた大著である。『最後の「天朝」』。著者は1950年北京生まれの沈志華で、朱建栄・東洋学園教授が1年かけて翻訳し、岩波書店が刊行した。目から鱗というか、間違った認識で中朝関係を見ていたのではと思い知らされる。特に、米日韓と中ソ朝をひとくくりにして恰も対峙しているとみるべきではない。また、朝鮮戦争以来「中朝は血で結ばれた同盟」という神話を徹底的に否定している。大平正芳記念賞特別賞、アジア・太平洋賞を受賞しているがもっと評価されていいし、読まれるべきである。韓国語版、香港版が出ているが中国ではまだ出されていない。

 朝鮮戦争はスターリンが了解し、毛沢東が頷き、金日成が南に侵攻したことに始まる。当初の進撃が阻まれ、北に押し戻されて、中国国境に迫ろうとした時に、毛沢東は100万ともいわれる兵を投入し押し返した。現在の38度線での休戦となるのだが、この時点で北朝鮮に対して毛沢東が決定的な影響力をもつことになる。その後国内での独裁体制を固めたい金は露骨な党内粛清を図るが、毛はこれに警告をし、両者の距離は深まる。しかし62年の中朝国境条約では、中ソの冷え込みもあり、毛は金に大幅な譲歩をする。その根底にあるのが、中国の伝統的な封建王朝が周辺の中小国家に対して、あえて鷹揚な態度をとる毛の王朝意識だと断じている。清朝末期に少年時代を過ごし、古書を読みふけった体験が根付かせた。この関係は毛の老いとともに陰りを見せる。75年の最後の会談で、金はベトナムなどの共産勢力の勢いに乗じて再度の武力による統一を試みたいと迫るが、毛は「私は政治を語らない」とはぐらかしてしまう。毛の死と鄧小平の登場で、両国関係は大きく転換する。鄧は毛と違って16歳でフランスに留学し、クロワッサンを食べている。そして改革開放政策への大胆な変更を行うと、金は資本主義そのものではないかと反論する。突き進む中国にとって、北はもはや重荷足手まといに過ぎなくなり、韓国の著しい経済成長の方が好ましく韓国との国交樹立が最後の決定打になる。北朝鮮の歴代指導者に受け継がれているのは、中国の裏切りであり、最も憎いのは米国ではなく中国である。

 著者は結論としてこう語る。中国はこのようなジレンマから脱却することであり,朝鮮半島の長期的平和と安定を実現するために中朝関係を通常の現代的国家間関係に定義し直して,合理的かつ現実的な対朝鮮政策を制定することにある。  もうひとつ。韓国の中国外交にも注目すべきだ。3項目の合意だが、THAADは現在の6機以上配備しない。アメリカのミサイル防衛システムには参加しない。日米韓の軍事同盟に加入しないというもの。背景にあるのは北朝鮮の当面の危機を乗り超えた後の外交デザインである。南北の国力の差は40倍ともいわれるが平和統一という観点に立てば、韓国主導しかあり得ない。トランプも北の問題はそちらで解決してくれるのであればそれでいい、ということになる。

 こんな状況で、日本はどこへ向かうのか。この著者はアメリカに追随し、一方で大国としてふるまいたいとする安倍外交に大きな矛盾があると指摘する。朝鮮半島の安定、統一に対して全く言及しないということは、北朝鮮危機を国難といって利用し、課せられた9条の束縛を解こうとするだけの火事場泥棒的外交といわれてもしょうがない。自国利益だけでなくアジア全体のことを考えたビジョンを示してはじめて、責任ある大国の態度ではないか。そこが日本外交に欠けている、と。姑息な外交では日本不要ということになる。

 さあ、読者諸兄諸姉よ、観客の立場を捨てて、とにかく声を挙げよう。とにかく改憲NO3000万署名で意思表示を!

参照「世界」1月号「歴史の真実から見える北朝鮮問題のゆくえ」

© 2020 ゆずりは通信