経済安保推進法

 今年5月11日に成立した「経済安全保障推進法」だが、運用の仕方によって国自体が大きく捻じ曲げられてしまう。そんな危惧を抱いているところに、内閣改造で高市早苗がこの担当大臣に就任するという。危惧は一層現実味を帯びてくる。思い出されるのが「政治的な公平性を欠く報道を繰り返した場合には、電波停止を命じる」と発言し、民放経営者を震えあがらせた。後ろの席で安倍首相がニヤニヤと頷いているシーンだ。この法律も権力が恣意的に判断し、介入できることが多い。

 20年3月の大川原化工機事件が記憶に新しい。横浜市にあるのだが、ここの社長ら3人が誤認逮捕された。生物兵器に転用可能な化学機械を中国に無許可で輸出したという容疑で、ほぼ1年拘留された。人質司法の典型だが、中枢の人間が経営から離れ、倒産の危機に立たされた。それが公判4日前に突然「起訴を取り消す」と釈放されたが、その後謝罪も何もない。この件で、公安、検察の誰ひとり責任を取っていない。全くの冤罪であり、腹に据えかねた社長らは国家賠償請求訴訟で当然、反撃に出ている。請求額が5億6500万円。さもありなん、是非見守っていきたい。

 経済安保推進法の本質は、対中国封じ込みを狙う米国に経済でも従属していこうというもの。企業の自由な経済活動、研究開発もすべてチェックしようと思えばできることになる。そんな法律だが、実にお粗末な利権がらみの人材で決められていった。国家安全保障局の藤井敏彦内閣審議官だが、「経済安保のキーマン、朝日記者不倫と闇営業」と文春オンラインが報じられると、懲戒処分を受けて辞職した。この藤井審議官が頼りにしたのがいかがわしい国際コンサルタント。当初契約していたのが「デトロイトトーマス」と「アーンスト&ヤング」(以後EY)で、いずれも国際的な会計事務所だが、デトロイトトーマスは中国への情報漏洩が発覚し、EY1社に作業は傾いていく。EYの主要な人物は國分俊史で、自民党及び公安調査庁のアドバイザーを務め、この法律のたたき台をまとめている。國分は、内閣情報調査室や警察の公安、公安調査庁などのインテリジェンス機関と企業とが信頼関係が築けていないことが日本の重大問題だといって、バイデン政権を見習え、とのたまう。数億円以上を払って、薄っぺらなアメリカかぶれのコンサルに法案作りを丸投げするしかないという日本官僚組織の現状である。経団連と公安調査庁が連動し、「権力に従順でないものは社会全体から排除する」という脅しの前に、三菱電機、富士通、NECなどは経済安保担当役員として、通産や公安OBの天下りを積極的に受け入れている。その典型的な事例は、日本のCIA長官といわれた前国家安全保障局長の北村滋が日本テレビの監査役に天下っていることだろう。安倍政権で杉田和博、北村滋を官邸内に取り込み、警備公安情報で裏からけん制する仕組みを作った罪の重さは計り知れない。岸田首相は「防衛力強化が最重要」といって憚らないが、こんな現実に倍増予算を注ぎ込んでも砂上の楼閣に過ぎない。

 そろそろ目を覚まそう。旧統一教会の票でも票なのである。選挙至上主義に抗する方策を考え出さないと奈落に落ちるだけである。

 さて、高市大臣だがひょっとしてこんな電話を掛けてくるかもしれない。「中国人を長生きさせるので、あなたのところのイムニタスマスクの中国輸出は差し止めます」。

 

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