「賃金破壊」関西生コン

 コンクリートミキサー車が走り抜けるのを見ると、固まらない内に工事現場に急いでいるのだなと思っていた。その労働の実態だが、配合によって生コンは強度も固さも変わってくる。建設会社の発注に合わせて配合や量を確認し、練り混ぜる。品質が変化しないよう90分以内で現場に届けなければならない。その後の洗浄もドラムに生コンが残っていると、新しく積む生コンの品質が変わってしまうので「うがい」と称して高速回転させる。それでも残るので半年に1回の定期点検ではハンマーで叩いて取る。

 生コン業界はゼネコン、セメントメーカー、生コン会社、生コン運送会社で構成され、そこに直接雇用運転手、日々雇用運転手が連なっている。一見してわかることだが、過当競争でそのしわ寄せが運転手に低賃金、過剰労働となってすぐに跳ね返る。そこに切り込んだのが「全日本建設運輸連帯労働組合」であり、「全日建」とか「連帯ユニオン」と呼ばれる。いわゆる産別労組であるが、そのうちの「関西地区生コン支部」が卓抜な交渉方法を編み出した。運転手の直接雇い主である中小零細の生コン会社を地域ごとの協同組合としてまとまり、ゼネコンに対し価格の引き上げを求め、その成果を運転手に還元させる。これには通産省も、オイルショックで業界が乱売合戦となり、安値販売が粗悪品となって、ひいては危険な公共事業や建物が生まれるのを恐れ、構造改善事業としてお膳立てした。その結果2000年以降、近畿地区の生コン価格が他地区を大きく上回り、運転手らの年収は600万~800万円の水準に達した。零細企業が協同組合でまとまり、運転手が連帯ユニオンという労働組合でまとまって獲得したものである。しかし、資本はこのままではいけないと恐れ、いわば虎の尾を踏む結果となって、大反撃大弾圧の挙に出たといっていい。見方を変えれば、虎の尾を踏まなければ、本物の賃金アップは得られない。

 2019年7月、京都の生コン協組が関西生コン支部との絶縁を宣言し、仕事を回さないだけでなく、警察権力も動員して支部組合員の大量逮捕に打って出た。現在まで逮捕者89人、起訴されたもの71人で、有罪判決も出始めている。弁護団は戦後の労働争議である60年代の三井三池、80年代の国労に匹敵するものと認識している。大量逮捕に加え、憲法28条が保障した労働基本権であるストや労使交渉などの組合活動をめぐって逮捕されており、しかも労働事件ではなく、警察が前面に出た刑事事件だとする。産別労組の異質性から、労組を暴力集団と読み替え、ネットではそんなフェイク情報であふれさせている。共謀罪が「犯罪の計画への合意」で罰することを可能にしたが、関西生コン支部を反社会的勢力として適用する風でさえある。内田樹は、戦前の治安維持法の一歩手前まで来ていると警鐘を鳴らしている。

 「賃金破壊」(旬報社)は元朝日新聞の労働担当であった竹信三恵子が気合を込めて書いている。副題が「労働運動を犯罪にする国」としているのはその通りで、検察、警察、右翼、暴力団までが総がかりで関西生コンを根絶やしにしつつある。あとがきに「それって、日本の話なの?」という疑問で始め、「日本って、こんな国になっていたんだ」と慨嘆するが、弁護団は国家賠償法で、国他3県を訴え、反撃に出ている。大阪府労働委員会ではほぼ全勝している。これからも注目していきたい。

 さて、賃金アップは成長に不可欠と首相が打ち出すが、眉唾の茶番劇だろう。介護保険制度をみればよくわかる。収入枠内での涙金であり、とても及ばない。介護の担い手がほとんど声を挙げていないことこそが問題だ。介護労働者の産別組織があれば、ストを背景に大幅賃上げが獲得できる。

 介護労働者諸兄諸姉よ、関西生コン支部の支援に立ち上がり、産別労組設立を目指そう。そこにこそ明日がある。

 

 

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