「通販生活」

自炊する愚息に、米とちょっとしたものを送った。その際のヤマト運輸富山黒埼店でのこと。駐車場にトヨタのセルシオが先に停まっているので、どんな客かな、と思った。受け付けテーブルに荷物3個を載せて、やり取りしているのがそうである。字を書くのが苦手のようで、時間が取られている。ひとつは風呂敷包みだ。店員が畏まって、風呂敷では困ると再三いっているが、耳を貸さない。「それでいいんや。万一ばらけても構わん」「段ボールを持ってきていただくか、こちらで購入してもらえればいいんですが」。「金かかるやろう」と書く手を休めず、下を向いたままドスの効いた声で返す。無駄口をたたかない。沈黙は、相手を畏怖させる最大の手法だ。店員は途方に暮れている。
 もうひとりの店員は、これ幸いと当方の相手をしてくれる。こちらは早い。しかし、事の成り行きをやはり見届けたい。配達時間指定で考える振りをして時間稼ぎをした。
 その時である。途方に暮れて、額に汗を浮かべていた店員は、ものも言わず、すっとその場を離れ、奥に走り去った。責任者でも呼んでくるのかな、と想像したが、そうではなかった。使い捨てみたいな段ボールを抱えてやってきて、「今回限りですが、古いのがあったのでこれを使ってください」と差し出したのである。
この手際のいい機転、お見事というべきだろう。この他にどんな選択肢があったのだろうか。風呂敷では荷物の責任が負えない、と押し問答するしか思い浮かばない。安倍官邸にも、こんなスタッフがいればいいのに、とついこぼしたくなる。集団的自衛権に関する有識者懇談会のことである。
 ところで「通販生活」という雑誌をご存知だろうか。わが貧弱なる消費生活を反省して、購読することにした。季刊だから年4冊で、540円。恥ずかしながら、わが生活の一端を記しておく。とにかく、面倒くさいが先に立つ。トランクスのゴムひもがほつれから、はみ出しているがそのままである。どこに買いに行くか、で躊躇ってしまう。男60で、パンツを選んでいる光景はわびし過ぎないか、となるのだ。
 この雑誌である。商品情報が満載と思いきや、「自衛隊はどうあるべきか」を特集している。人選もよいと思われる5人が、それぞれの視点で書いている。?日米同盟追随ではなく、独自の判断で国際貢献していく。9条を堅持して、国際問題で侵略的な関与をしない経済大国というブランド力の強化。?集団的自衛権を認め、日米同盟をより強固にし、イギリスのように米軍と肩を並べて行動する。?在日米軍基地を撤廃、日米安保を解消し、核兵器不保持で、自衛のための交戦権を認める。?前項に似ているが、核保有も論議していく。?解体して国境警備隊と国際レスキュー隊に改組・縮小していく非(軽)武装中立。これらが現実的な選択肢と思うが、自分の意見を作っていくための勉強素材にしてほしいと訴えている。
 朝日新聞も3月21日朝刊で、日米同盟の今後の選択肢として、維持するとすれば?非対称?対称、破棄するとすれば?武装中立?軽武装中立と同様の意見を挙げ、論議を呼びかけている。主婦層を中心とすれば、通販生活の方が朝日より影響力があるかもしれない。
 また、チェルノブイリの母子支援募金、イラク医療支援募金の振込み票が綴じ込められている。各2000円だが、それなりの実績を挙げているようだ。こうした常識破りの雑誌編集に、今更ながら驚かされた。まったく不明を恥じなければならない。
 発行はカタログハウス。76年、日本ヘルスメーカーという社名で、ルームランナーの販売を始めたのがきっかけだ。82年に「通販生活」を創刊し、88年にはもう100万部を超えたという。現在では、直販の店舗も展開している。
 はてさて、通販もひとりではできないようだ。ものぐさ、不精もここに極まるといっていいかもしれない。10年前の消費生活レベルがまだ続くということ。ということは、鰥夫ひとり、ほつれパンツで9条堅持に立ち上がるということだ。

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