加藤さん、野中さんよ。「失敗の本質」を読んでから

自民党らしいチキンレースが始まっている。日本の最大政党なのでこの国民性に共通する資質であって、DNAにきちんと刻印されているのだろうか。臆病な人間がその臆病さを悟られまいと大言壮語し、時代がかった貧困な言語を大声で発する田舎芝居。まるで戦前の陸軍、海軍を見ているようで、日米開戦もこのように決まっていったのかな、と想像される。「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」(中公文庫760円)。経営学を専攻する学者たちの手になる労作である。ノモンハン事件は失敗の序曲。ミッドウエイ作戦は海軍の、ガタルカナル作戦は陸軍の敗走への転機。インパール作戦は賭けの失敗。レイテ海戦は自己認識の失敗、沖縄戦は終局段階での失敗。ことごとく失敗に失敗を重ね、その都度荒唐無稽な強硬論に押されて、ますます犠牲者を増やしていった。問題はその意思決定に参画したリーダーたちの無責任、自覚の無さである。象徴的な出来事は、特攻隊生みの親である海軍の大西滝次郎中将と海軍の富永恭二中将のその後。大西は腹を切るが、富永は命令なしにフィリピン、台湾と逃げ回り、本土に逃げ帰っている。多くの有為な若者を死に追いやりながらの卑劣な行為である。何にも変わっていない。この50年て何だったのだろう。そう思わないではおれない。

愛国・愛社を錦の御旗に言をろうする人間は眉つば、と庶民は思うべし。かくいう私もいわれた「あなたみたいに安全地帯にいて、評論家然としてかっこいいことばかりいわないでよ」と。返す言葉がない。

さて加藤紘一さんの勝算は通じるのか。自民党という巨大な既得権、利権。これにありついている多くの人が、今宵も脅しを掛け続けているのだろうか。

20日の国会は見逃せない。昭和55年の大平首相への不信任案決議の様子を、新宿の居酒屋のテレビで見ていたのを思い出した。異様な雰囲気であった。賛成票ごとに大歓声が起きるのである。衆議院議長の「よって不信任案は可決されました」の声に、議場は声にならないどよめきが湧き起こり、議場はもとより、その居酒屋といわず日本中が興奮した。

そういえば小中学生のいじめも、このようなチキンレースで始まっているのであろう。どなたかに、加担する弱さを超える、臆病者といわれてもかまわない強さを身につける秘訣を教えてほしいものだ。

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