政治の潮目は変わるかもしれない。7月参院選に向けて野党統一候補擁立の動きが加速しているが、さきがけとなった熊本のレポートを読んで、そう思った(「世界別冊 2015年安保から2016年選挙へ」)。加えて、新潟選挙区で生活の党の森裕子・元参院議員に一本化することでまとまった。この潮流に乗ろう!落合恵子の「おとなの始末」流にいえば、あなたが沈黙を破って自らそれに乗るべきだとなる。
ともあれ紹介しておこう。熊本の野党統一候補は49歳の阿部広美弁護士だ。魅力的な候補者である。決起集会では、「すごく貧しい家庭に育ちました。電気が止められて、ロウソクの炎で過ごした日もありました。10年間弁護士をやってきましたが、徹頭徹尾弱者の立場に立って、弁護士人生を送ってきたことが私の誇りです。ここに集まってくださった皆様と手をつなぎ、そして熊本で暮らす全ての方の思いをきちんと国政に届けたいと思っています」とあいさつしている。共感を呼ぶこと請け合いだ。同じ集会に駆けつけたSEALDs(シールズ)の奥田愛基も「ここが民主主義の最前線!」と応じた。この熱気が全国に伝わることである。自公対民共だと挑発され、はたまた同日選だといわれて、それでも後手にまわるようだと既成の野党は生き残れないだろう。勝たせたい候補を勝たせる戦略的投票を肝に銘じたい。
さて、軌を一にして「シニア左翼とは何か」(朝日新書)が潮目に拍車をかける。孫を戦争に行かせたくない!我々は再び闘うぞ、と叫ぶシニアである。2015年8月30日国会前集会がシニア左翼の出現を象徴する。一貫組、復活組、ご意見番組、初参加組に分類されているが、昔は悲壮感が漂っていたが、今は楽しそうだ。特に若いSEALDs(シールズ)メンバーがそばにいると顔がほころぶ。
最高齢は俳人の金子兜太は96歳。澤地久枝に頼まれて「アベ政治を許さない」を揮毫した。デモや集会では誰もが掲げる。「水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る」。句に込めた痛切な経験と日本銀行労組の専従につき戦後の労働運動を牽引してきた自負がそうさせるのであろう。瀬戸内寂聴も「恋と革命よ」とシールズの応援団を任じる。大江健三郎は激して、安倍と呼び捨てにする。戦争法案に反対する学者の会はノーベル賞の赤崎勇、益川敏英のふたりが先陣を走るが、もう失うものはないという気楽さが垣間見える。若い学者はそう簡単ではない。准教授、教授ポスト争いがあり、科研費審査で不利益を受けるかもしれないという計算が先に働く。ビビってしまうのである。
一方、新左翼のメンバーもこの潮流の中で反応する。「革共同政治局の敗北 あるいは中核派の崩壊」が奇しくも刊行された。8年間の内ゲバで33人が殺害され、半身不随のなった人間も数多い。自分が死ぬ前に整理しておきたかったという自己批判の書だが、彼らも国会前に足を運んでいる。秩序派、守旧派であり、変革を求める人たちが集まる場ではないと、中核派はこの運動を否定しているのだが、共感を寄せる党派が多い。
潮目とみるのは、こうしたシニア左翼の活動とシールズ、そして熊本パパママの会などの若い市民活動が相乗的に響き合って、野党統一候補で勝てる状況を作り出し、選挙でもって世の中を変えていこうという動きだ。新しい政治文化を生み出すかもしれない。
富山でも4月3日午後1時30分から、富山国際会議場で「オールとやま県民大集会」が開催される。山口二郎法政大学教授とシールズの本間信和・筑波大学3年生がゲストでスピーチする。この潮流の雰囲気をぜひ味わってほしい。1000円のカンパが必要だが、それに値する。
「シニア左翼とは何か」