書き忘れているのではないか。小さな声だがとても大きな問題提起だった。今年の夏、ある会合で初めて「香害」という単語を聞いた。富山県総合体育センターの会議室で開かれていたが、ある女性参加者から「次回の会合には参加できません。実は化学物質過敏症ともいわれる症状に悩んでおり、今も息苦しく感じています」と発言。この体育館には、ユニフォームを洗濯する際の洗剤に含まれる香料から発する物質が沢山浮遊しているからだ、という。理解できない唐突な発言に、終了後申し訳なかったが、もっと詳しく教えてほしいと残ってもらった。
最近特に「アリエールミライ」「アタックゼロ」などの抗菌洗剤の成分が改悪され、体調不良が続いているのですが、なんとか生きております。もちろん仕事は続けることはできませんでした。東京は特にひどく、逃げるように富山に帰ってきたのですが、それでも程度の差はあれ、苦しさから脱しておりません。
香害による不定愁訴的なだるさ、頭痛、胃腸や呼吸器の不調、コロナの後遺症でもあるブレインフォグ、イライラ、肩こり、不眠、目や耳の不調、しつこい湿疹やかゆみなど。そんな症状のある人はかなりの数になると思われます。コロナや加齢のせいだと思っている場合がほとんどでしょう。香害の情報が一般に知られていないので、まさか日用品で体調不良になっているとは思えないのです。
合成洗剤で手荒れをさせてハンドクリームを売る。香料で頭痛を起こさせて頭痛薬を売る。花王、ライオンもそうですが、一番悪どいマーケティングをしているのがP&Gでどんな製品を出してくるか恐ろしいです。大企業のいいなりの政策を早く変えなければなりません。日用品に含まれる化学物質による新たな公害だと断定していいでしよう。
そんな彼女の話を聞いていたので、紀伊国屋書店で「化学物質過敏症とは何か」(集英社親書)を見つけてすぐに手に入れた。著者は渡井健太郎・湘南鎌倉総合病院免疫・アレルギーセンター部長。現在の国内患者数は約120万人で、潜在患者は1000万人以上になるだろう。誰にでも発症の可能性があり、一度罹患すると日常生活や社会活動に著しく支障をきたすにもかかわらず、症状が多岐にわたるためアレルギーと誤診されたり、気のし過ぎだと放置されている。発症のメカニズムは脳過敏ではないかと推察している。ひとりの専門医では完結せず、さまざまな診療科医との分業分担が不可欠だとする。つまり治療法がまだ見つかっていないのだ。花王、ライオン、P&Gの生産を止めるしか解決策はないように思う。
この歳末にきて思い知らされる。私たちはしがない生きものなのだ。この当たり前のことに気付き、戻らなければ納得いく社会にならない。拡大、成長、進歩なる価値観を捨て去ってみれば、環境破壊も健康被害も消え失せるのではないだろうか。老人は腸内常在菌に任せて、薬無用、医者不要に徹しようと思う。
どうもわけのわからない時代が到来しそうな気がする。自業自得というべきだろう。