「火山と日本人」

日本は火山列島である。北海道から九州・沖縄まで日本列島の地形の多くは火山が作ってきた。その火山群は日本列島を巡っている4つのプレート、太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートによって作られている。
 世界12月号に載った島村英紀・北大教授の「火山と日本人」からの引用である。簡潔で分かりやすく、起承転結がはっきりしている。引き込まれるように読み終えたのだが、さもありなん、日本科学読物賞・講談社出版文化賞・産経児童出版文化賞を受賞し、中学校の国語教科書に採用されている。同じ地球物理学者である寺田寅彦を彷彿とさせるが、品性においてはどうか、との疑念も持たせる。というのは、41年生まれながら、かなりの精力家であるのだろう。日刊ゲンダイ、夕刊フジ、アサヒ芸能、フライデーと媒体を選ばず精力的に書き飛ばしている。北大浦河地震観測所長も務めているので、ひょっとして「べてるの家」連中とも気軽に接しているのではないかと想像し、愉快になってくる男であることは間違いない。
 注目したのは「アイスランドに学ぶ」の項だ。既に研究のため大西洋の中央にある孤島、アイスランドを13回訪れたというが、日本と似ている。ここは太平洋プレートとユーラシアプレートが生まれているところで、この二つのプレートは、それぞれ地球を半周して日本で再び合わさって、日本の地震や火山を左右している。火山が多くて、地熱が豊富なことを生かして、この国では地熱発電と水力発電ですべてまかなっている。いや、電力は余っていて「輸出」さえしているのだ。もちろん電力を「輸出」することは簡単ではないので、ボーキサイトを輸入して、大量の電力を使って製錬したアルミニウムにして輸出するという方法で、余った電力を「輸出」しているのである。そういえば60年代後半に新産都市計画で出来た富山新港背後地に住友アルミ精錬を誘致した理由も、富山の安価な水力発電を活用するためであった。
 アイスランドではこのほか市内のバスは水素で動いている。水素は水を電気分解して作るもので、水素ガスの自動車は有害な排気ガスを一切、出さない。トヨタがようやく動き出しているが一歩先をいっている。とにかく原子力発電所はもちろん、化石燃料を消費して二酸化炭素を出す火力発電所さえひとつもないのだ。日本が見習うべきことは多い。
 ところで、世界史では火山の大噴火で滅びてしまった文明はいくつかある。鬼界カルデラの噴火では、九州を中心に西日本で先史時代から縄文初期の文明が断絶してしまった。縄文初期の遺跡や遺物が東北地方だけに集中しているのはこの理由だという。東日本大震災のあと4年以内に近くで大噴火が起きるという定説がある。御嶽山はそれを裏付けるものといえるが、富士・箱根もそれに連動して起きても不思議ではない。
 そして警告する。地球物理学者から見れば、モザイクのような成り立ちをもつこの火山列島で「大噴火」や「カルデラ噴火」、そして大地震が避けられない日本で、原子力発電所を持ち、その廃棄物を数万年の単位で長期間にわたって管理しなければならない核燃料を扱うことはなんと無謀なことか、と。
 この島村教授には06年、詐欺罪で171日間の拘留経験がある。海底地震計の共同開発研究費にちなむものだが、地震は予知できぬとする信念が、国べったりの研究者の反感からのもので、国策逮捕・国策起訴では控訴しても無駄だと控訴を断念したらしい。
 70歳を過ぎたら、こうして生きねばならないというモデルをあろう。例え冤罪であろうと負けてはならぬ。

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