「女性のいない民主主義」

 初夢である。日本の有権者はようやく自民党政権に見切りをつけた。そして選んだのは初の女性首相。ホワイトハウスで日米首脳会談に臨んで、こう切り込んだ。「もう日本は豊かな先進国ではない。いいなりの武器購入も、思いやり予算も出せないし、日米同盟のコストに耐えられない。そんな結論になったが決して反米ということではない。理解してほしい」。ある程度予測していた米国大統領は従来の卑屈そうな首相と違って、ある種の清々しさを感じていた。米国シンクタンクのレポートは日本の衰退は確実で、アジアのパートナーとしての力量もなく、同盟のコストとリスクの方が上回ると見直しを提言している。「非核平和主義を掲げ、アジアの非同盟小国として、生きてゆくのも悪くはない」と大統領は女性首相に笑顔を見せて、余裕の握手を交わした。

 野党共闘で政権交代を果たした新政府だが、最初から腹が固まっていたわけではない。経済軍事面であっという間に抜き去っていった中国の背中を見ていると、日米同盟は欠くことができない保険という論。保険料はどんどん積み上がり、GDP比2%も当然という空気となり、米本土の基地整備より沖縄の方が安上がりとなっての辺野古埋め立てが進む。つけこまれるというより、自発的な隷従策だが、9.11以後累計で15兆円に及ぶ軍事協力をしている。一方日本経済だが、平成元年に世界GDPの16%に占めていた日本の比重は、平成が終わってみたらわずか6%に、そして20年後には3%前後に落ち込むとみられている。経済の埋没は政治の埋没。国連常任理事国入りなどと騒いだこともあったが、どの国も相手にしていなかった。国内向けのひとり相撲でしかなかったのだ。閣議は思い切って損切りをして、再建を期そうということで一致した。下野した自民及び日本会議、JCメンバーは議事堂を取り囲み、日の丸と旭日旗をはためかし、軍艦マーチをかき鳴らして、政権奪還を叫んでいた。

 新しい女性首相の所信表明は旧来のものを捨て切ったという実に小気味がいいものだった。この政権に賭けようとシニアリベラルとしては胸がすく思いがした。34歳の女性首相が誕生したフィンランドも衝撃だったが、そんな時代がすぐそばまで来ているということだ。見えないだけ。これを引き寄せなければならない。「女性のいない民主主義」(岩波新書)は、80年生まれの前田健太郎・東大准教授が時代の要請を意識して書いている。購買データでは45%が女性で、岩波新書では異例なことだ。ジェンダーという概念は女性を指すものではなく、男性と女性の関係性を指しており、すべての事象にその関係性を見て取ろうと試みている。もちろん男女の不平等だけでなく、性的少数者にも気を配る。この視点を欠いては、未来を切り拓けない。

 余談だが、先日中国籍を持つ金沢大学医学部2年の女性と話す機会があった。両親は日本での永住権を取得しており、本人は産婦人科医を目指し、日本で働きたいと思っているが、母は中国の方がいいといっている。彼女は東京医大の女性差別もあり、日本医師会が医師の数をコントロールし、女医の数も表立てないように制限しているのではと強い懸念を持っている。男女差別のジェンダーギャップが世界135カ国中で121位の日本では、彼女を日本に引き留めることはできないかもしれない。

 同期生からの賀状の1枚に、「この期に及んでまだカネか。こどもたちに快適な地球をつなぎたい」とあった。残り少ないこの命。どう咲きゃいいのさこの私、夢は夜ひらく。 

 

 

 

 

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