12月3日夜、韓国・尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣武した。時間を置かず、軍隊が国会議事堂になだれ込んでいる。「失敗すれば反逆罪、成功すれば革命」と叫ぶ映画「ソウルの春」が思い出された。こんなことが現実に起きるのだ。6時間で収まったが、いろいろなことが想像できた。
強大な権力を持つ尹大統領の孤独と妄想に起因することは間違いない。少数与党の国会で、野党が大統領秘書室・国家安保室、検察、監査院の特別活動費を全額削減してしまい、身動きができない状況に追い込まれた。加えて夫人のスキャンダルが次々と暴露、追及されて、窮地に陥る。政治経験が乏しく、頼るべく人材もいなくて、高校同窓である金・国防相や、李・行政安全相、呂・国軍防諜司令官に頼らざるを得ない。この韓国らしい内輪感覚が狂わせたのだが、就任以来のやられっ放し状態が心理的に限界に達していた。そこに密室協議が始まり、まったく展望のない子供じみた策にすがるしかなかったのだろう。中小企業にみるお家騒動にも似ている。
更に重大なことだが、追いつめる野党の背後に「従北反国家勢力」つまり北朝鮮の影を見ている。朝鮮戦争以来右派に身に着いた思考回路で、韓国を分断するイデオロギーだが、憎悪に近い感情といっていい。更に読み解けば、日韓関係の改善は尹大統領の一方的なリーダーシップに頼ってきたが、根底にこのイデオロギーがある。徴用工訴訟で肩代わり弁済をしている「日帝強制動員被害者支援財団」が13億円の不足を訴えているが、日本政府は無視している。安倍外交の呪縛から解き放たれていない。早晩、野党系の大統領が誕生することは間違いないのだから、元の木阿弥になるのは間違いない。
この混沌の中で、トランプ大統領が本格登場する。しかも立法、行政、司法のすべてを共和党が握った状態で、イーロン・マスクや親族の登用などまるで皇帝になった気分だろう。力だけが支配する世界の現実とは、いがみ合う日韓関係をよそに、関税、米軍駐留費など次々に請求書が山と積まれる。関税が怖いなら、カナダは米国51番目の州、日本が52番目、韓国が53番目、俺はかまわないと豪語する。更にやっかいなのは北朝鮮との交渉も視野に入れていること。金正恩とは相性がいいというが、ウクライナに兵士を送り込んで、核保有は絶対に譲らないという相手にどんな取引が成立するのだろう。拉致の解決仲介を頼んだ日には、平壌宣言を米国主導で行い、日本の賠償金で米国企業が北朝鮮のインフラ整備を請け合うということになりかねない。想像以上の惨状が続くのは間違いない。
さて、来年が日韓条約60年だ。記念行事がすべてなくなりそうだが、それもよし。この際、ピンチをチャンスに変えるべく、もっと大きな舞台をトランプのために用意しよう。韓国新大統領と石破首相の主導で、トランプに北朝鮮、中国、ロシアを入れた6者協議を再開しようと提案するのだ。北朝鮮への危ない火遊びほど危険なものはない。