道頓堀極楽商店街

世の中には同じようなことを考えている奴がいるもんだ。7月2日、大阪の繁華街、ミナミのど真ん中に「道頓堀極楽商店街」が開業する。いや、もう開業しているはずだ。商業ビル「サミー戎プラザ」の5-7階。昭和初期の大阪を再現し、50軒の飲食店がひしめく。一番の売り物が、内装でも味でもない「人情」。店員のほとんどが一般公募で集まった50歳以上のおっちゃん、おばちゃんたち。1500人の応募から、厳選の200人。何とカネに渋い大阪人から入場料350円をとる商店街だ、というよりショー店街。
 仕掛けはこうだ。お好み焼きの「オモニ」、新世界の串カツ「だるま」、立ち飲みの「山中酒の店」、バーもあり、外は昼でもこの街は夜。最大のみそは、この商店街と住民に関する「歴史」作りをプロの作家に依頼、厚さ2センチの長編小説に仕立ててある。脚本といってもいい。これをもとに、各店員に役が割り振ってあり、店員はそれを覚え、演じなければならない。「わてな、××で生まれて、×歳で駆け落ちして大阪に出てきて、こんな事件が」。演技とも、ほんものの人生とも見極めがつかない演技力を求めている。厳選になるわけである。人生に疲れた中年、昔懐かしい老人、生きる意味がつかめない悩める青年が対象だ。キャッチコピーが「お客さんも極楽。働く人も極楽」。おっちゃん、おばちゃんたちはやる気満々で、「ノリノリの商店街で、バリバリ働こう!」となっている。食と人情のテーマパークである。企画したのはソルト・コンソーシアムの井上盛夫社長。フードテーマパーク第1号「新横浜ラーメン博物館」は1994年、それから10年、関西B級グルメの人気店で、劇場化して、社員の質での展開である。年間の入場者見込みが200万人、客単価は入場料含めて2000円。投資額12億円を数年で回収しようというもの。
 同じようなことを実は考えていた。富山駅前再開発ビルの閑散とした体たらくを見てからだ。市民の批判をかわそうと仕方なしに官が前に出て、お茶を濁しているのを見て、腹が立った。俺だったらと、似たような企画を温めていたのである。
 企画内容はこうだ。昭和19年から21年生まれが出資するNPOで、富山駅前再開発ビルの1フロアを貸し切る。富山の昭和を再現し、ミニシアター、ジャズ喫茶、歌声喫茶、居酒屋、バーで構成。居酒屋のおばちゃんは、東北生まれ。中学を卒業して紡績工場で働き、そこの大学卒の正社員にだまされる。そこから転落が始まり、温泉旅館を転々、阿部定と一緒に働いたことも。バーのマスターは韓国済州島育ち。あの凄惨な四・三事件を体験している。猪飼野コリアンタウンに逃げ込み、定職を持たずに暮らしてきた。これがジャズを語らせたら止まらない。という具合に、店員一人ひとりが昭和史を背負っている。歴史に精通した語り部である。越の国人情純情飲食街だ。社会人大学も考えたが、どうも固苦しいし、年齢的に広がらない。カネを回すというインセンティブはこうした事業に欠くことはできない。そして、ねじめ正一の「高円寺純情商店街」と、半藤一利の「昭和史」にいきつき、酒と食をはさんだ軽いカルチャーセンター構想となった。
 店員は20人、平均年齢は当然60歳、報酬は年4回の国内外の歴史研修旅行。投資額1億円、入場料500円、年間見込み客2万人、5年で回収して、団塊の世代に引き継ぐ、という皮算用である。どうだろうか。
 団塊の世代が一挙にリタイアをして、年金生活にはいると、わが国の個人消費が落ち込んで、経済に大打撃を与えるという試算が出ていた。その先駆けとしてわが世代の責任は、こうした試行錯誤をして、スムースにソフトに社会参加の道を拓いてみせることではないかと思っている。

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