なんとなくずるずると

変な動きになってきた。共謀罪、南スーダンPKO、日米首脳会談、まるでとっかえひっかえするように遊ばれている。とにかく「やってる感が大事なんだ」と首相がのたまい、その通りにただただ動き回る。その度にテレビに自身の姿が映し出され、新聞には活字が踊り、意味もなく頑張っているように見える。成果の有無なんてどうでもいいんだ、眩惑するように煙に巻くようにふるまうのだ。これが政治の要諦で、選挙だけには絶対に負けてはいけない。党内対立で身動きできない野党だからこそ、このようにふるまうべきだし、ふるまえるのだ、とうそぶいているようにも聞こえる。
 「強いアメリカを取り戻す」というトランプに、僕も「取り戻そう日本」というコピーで選挙戦を勝ち抜いてきたんだ、と擦り寄る光景が目に浮かぶ。日米同盟の看板こそ、これが眼に入らぬかという印籠であると思い定めるのは、国内勢力の誰もこれに反論し得ないからだ。自分の主張や地位を正当化するための国内向け口実に、これほど効果的なものはない。ところがトランプにとって、首相がすがる日米同盟はそれほど優先度の高いものではない。娘が展開するブランドのイヴァンカ・トランプの方が上かもしれない。どんなに無視をしても、押しかけてきて米国に貢献したいというひたむきさに、トランプは不思議に思いながらも、メルケルよりも使い勝手のよい指導者と思っているに違いないだろう。
 日米会談を特別の厚遇に仕掛けるまでの、駐米大使をはじめとするロビー活動はどんなものだったかと想像する。ゼニカネに糸目をつけるな、あらゆる可能性をすべてやるのだという檄が飛び、いままでのジャパンハンドラーであったアーミテージやジョセフ・ナイとは違う人脈を探し当てねばならない。ワシントンは政治の街であって、情報が欲しい人間が世界中から集まっているが人口65万人と少ない。ほぼ3か月もいるとネットワーキングがわかってくるという。その走り回る姿を見て、EU関係のスタッフからは、何もそこまでしゃかりきにやることはないだろうと白い目で見られていたことだろう。これが終わると官邸から、よくやったということになる。沖縄の翁長知事も少し前に訪米していたが、駐米大使館からの協力があるわけでなく、孤立無援の中でどうしていたのか、心が痛む。ひとつ念頭に置いておきたいのは、ワシントンでひとり立ち向かう猿田佐世・新外交イニシアティブ代表で、多分翁長知事のサポート役になっていることだと思う。アメリカウオッチに欠かせない人である。
 ここまでは戯画風に話してきたが、わが首相も馬鹿ではない。その本音はどうかだ。ショックドクトリンよろしく日本の軍事力強化の好機と踏んでいることは間違いない。日米同盟強化はアメリカへの貢献と同義語であり、軍事費はGDP比で確実に1.2%をクリアし、2%に近づけることに躊躇しないだろう。治外法権の日米地位協定はそのまま、駐留費負担の増額、オスプレイやF35ステルス機、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)などの高価買い入れなどは当然のこととなる。中国の台頭に日米同盟強化で対峙しつつ、わが国の再軍事化は米軍との統合化で進むことになる。その先であるが、憲法改正を視野に入れつつ、日米同盟から離れても自主防衛できる軍備体制を手に入れることになる。天皇を元首と仰ぎ、国防軍が東アジアに君臨する。こんな本音を隠し持っている。
 サンフランシスコ講和条約が締結されたのは1951年、その翌年に恩給法改正案がされ、戦前の扶助体制が真っ先に復活した。戦後政治は戦前に復帰しようとする保守勢力によって主導されてきて、この安倍政権によって総仕上げの様相を露骨に見せている。
 さて、なんとなくずるずるとこの流れを容認していいのだろうか。冷笑型、懐疑型、傍観型に分類されるあなたよ、とにかく声を挙げるべき時が来ている。普通の生活者として、正面から政治に向き合ってほしい。保守支配層の野心の前に、国民の生活は全く視野にはいっていない。

© 2024 ゆずりは通信