歳末3題

アスベスト禍はすぐそばにあった。中皮腫の進行を告知されたのは同期生。40年前だから、20歳も前半であった。ひょんなことから火災報知機の会社から働いてみないか、と誘われた。当時は労働市場が発達しているわけではなく、ちょっと馬力のありそうな男は声をかけられた。最初は工事現場だ、鉄骨に吹き付けられるキラキラ光るものが浮遊する中で配線を行った。嫌な感じだった記憶がある。その時に、髪の毛の5000分の1という針のように尖った異物が胚細胞に突き刺さった。潜伏期間40年を経て、静かな時限爆弾が炸裂した。本人の動揺は隠せないが、在宅で頑張ると奥方は決意を固めた。
 「ぼくの肺には、永久に光る粉が刺さっている」と書きだした作家・佐伯一麦の「石の肺」が思い出される。 アスベストの輸入急増は70年代。団地の建設ラッシュであり、不燃住宅に格好のすぐれた素材がアスベストであった。電気室、ボイラー室、エレベーター機械室などの壁、天井にこれでもか、と吹き付けられた。野放しどころか、消防など監督官庁の積極的な奨励策でもあったのだ。裁判は国家の不作為責任を認めたが、「何をいまさら」と誰もが思う。
 フクシマの放射線禍もこんな経過をたどるのではないかと危惧する。そして住民の手による診療所を作ろうと福島診療所建設委員会が立ち上がった。国立がんセンターの松江寛人・がん総合相談センター長らが募金を呼びかけている。
 いまひとつは、記憶の片隅にと思う。篠原三代平・一橋大学名誉教授が亡くなった。高岡市末広町の雑貨商の出身で、高岡商業に学んだ。20年前になろうか、全国規模の経済フォーラムを企画した時に、基調講演は何があっても郷土出身の篠原さんだということになった。そしてもうひとり、同じく板垣與一・一橋大学名誉教授も忘れてほしくない。板垣は新湊の漁師家の出身で高岡商業、小樽商科大学を出て、一橋で篠原と机を並べた。また板垣はバックナンバー375で紹介した瓜谷長造の長女を娶っている。この時代の高岡高商のレベルの高さと、庶民でありながらその志の高さはもっと評価されていい。老人の備忘録でもある。
 さて、これも避けて通れない。ここは逃げずに事後ではなく、事前に論じておかなければならない。16日に投票を待つ総選挙である。マスコミ各社の情勢調査では、自民の比較第一党は確実で、単独過半数を手にする可能性も大きいという。ということは、安倍首相は間違いない。これに結党の精神を忘れ、何が何でも与党という公明がくっつき、維新がペーストのように張り付く構図だ。加えて、自民党総裁選で安倍の流れを作った麻生元首相が副総理兼財務省になるという見立てまである。安倍、麻生の元首相が二人うち揃い、石原が後見人の顔をして、聞いたようなセリフを吐く。こんなことが起ころうとしているのだ。
 朝鮮日報は11月22日の社説で問うている。「安倍総裁、この公約で首相になり韓中首脳に会えるのか」。海外メディアは日本の右傾化は弱さの表れといい、言外に歴史に全く学ばない、自国にしか通用しない論理立てと冷笑している。それでも日本の有権者は、集団的自衛権を認め、その後に憲法改正をする、教育は競争原理を持ち込み、歴史教科書を塗り替える、原発はほぼそのまま維持する、国土強靭化で200兆円を公共事業に振り向ける、超インフレにして経済成長を図る、そんな政策を支持しようとしている。
 雑誌「世界」は巻末で、嘉田の「未来の党」支持をさりげなく訴えている。小選挙区ではやはり反自民の視点が必要だろう。後退はやむを得ないが、それを最小限にして、一歩後退二歩前進となる勢力を最大限残すという選択しかないように思う。

© 2020 ゆずりは通信