NHK解体論

 85歳の姉が初期の認知症となり、通帳を管理している。20年10月26日「NHK24,185円」と自動引き落とし。これを見て、猛烈に腹立たしくなった。これは姉の衣料品店のテレビ。デイサービスのない週2回、店のシャッターをひとつだけ空けて、店番をするのを生きがいとしている。テレビは炬燵でながめている程度。それでも受信料月2000円を払い続けなければならない。最高裁は、不払いに差し押さえ処分も可能とした。この判決効果は大きく、19年度収入は伸びて連結8010億円となり、差益金はゆとりの304億円。高齢者のなけなしの金をむしり取っている受信料だという意識はさらさらない。民放がコロナ禍で苦戦しているのを横目に、唯一気を配るのは政権だけで、なりふり構わず政治権力に擦り寄っている。これが日本の公共放送の実態。しばし、老人の悲憤慷慨に付き合ってほしい。

 最近のNHKニュースは見るからにぎこちない。特に国会報道では、与党のつまらない質問も取り上げ、首相会見ではNHK記者が真っ先に指名され、いつもぎこちない首相がスラスラ答える。猿芝居を見せられている。また、かんぽ保険不正販売をめぐるNHKのスクープ報道は、日本郵政の抗議に屈して、経営委員会は上田NHK会長のガバナンスがないと厳重注意とした。番組編集の独立性が確保されていない。

 見る方はたまったものではない。思い出すのは01年1月、安倍晋三と中川昭一がNHKの責任者を呼び出し、放送直前の「問われる戦時性暴力」の番組変更を求めた。それに呼応するように右翼団体がNHKに押しかけ、無断で立ち入り、プロデューサーの自宅や家族にまで脅しを掛け続けた。切迫した状況での経営側とのやり取りだ。「これは業務命令だ。お前らと番組論の話をしている場合ではない。経営判断だ」「この時期、NHKは政治と戦えないのよ。天皇有罪など一切なしにしてよ」「君が一生懸命でまじめなのはわかった。でももう決まったことなんだよ」。現場の絶望感、敗北感は今に続き、南京大虐殺、昭和天皇の戦争責任、慰安婦問題はNHKの三大タブーといわれる。

 一方で、罪滅ぼしのように、政治と距離のある文化伝統芸能などにはふんだんに制作予算が投入されている。その映像の質は抜きんでているし、そのライブラリーは宝の山といっていい。一度、相田洋NHKプロデューサーと仕事をしたが、管理職を断り、生涯現役で自分のライフワークを追求する開けっぴろげで豪快な人だった。NHKの人材の幅広さであり、懐の深さだ。

 果たして解決策はあるのか。森友問題でNHKを飛び出した相沢冬樹は「上が腐れば下も腐る。放送法を変えて最高意思決定機関である経営委員の任命を民主的にしなければいけない」と語る。この程度では難しい。公共放送維持の名のもとに、ここまで肥大化した組織は必要だろうか。大胆に考えると、政府広報のみに特化した局として、税金でまかない、受信料は廃止する。他はすべて民営化し、有料放送でやる。これくらいの大改革でしかNHKの再生はできない。ましてネット同時配信のもとで「総合受信料制度」で更に収入を確保しようという態度では、強烈な政治権力に対抗できるわけがない。堕ちるしかない。

 はてさて、高齢者の受診料支払いを減免する家族割引とかあるがこの手続きが面倒である。せめて単身独居の後期高齢者は無料だろう。

もうひとつ、NHKローカル局のやる気のなさとレベルの低さも、とても気になる。

*参照/週刊金曜日1月29日号 世界3月号

 

 

© 2024 ゆずりは通信