気づいた時はもう遅い

「噂の真相」の休刊騒動がおもしろい。東京の新宿3丁目、ゴールデン街近くの雑居ビルがその編集部。編集長が岡留安則。25年前、10万円の公募株主を募り、広告スポンサーを集め、ゼロからの出発をひとりで担った。1947年鹿児島生まれ。全共闘の挫折組である。その後、マスコミ評論なる雑誌を立ち上げたが4年で行き詰まり、共同経営が決裂。しかし、そこで逃げなかった。自分についてきた5人を食わせるためだ。一方でこんな気概もあった。いくらマスコミ評論を書いても、マスコミは少しも変わらない。それなら、オレがスクープのあり方を教えてやろう。あらゆるスキャンダルを追いかけ、名誉毀損訴訟もものともせず、身体を張ってきた。といっても、勘違いをしないでほしい。タテマエ大事のジャーナリズムではない。天皇制批判をやり、右翼に襲撃される。東京高検の則定検事長の女性スキャンダルを暴き、辞任に追い込む。その一方で、作家、女優、いわゆる文化人の偽善、欺瞞を的外れも含めて徹底してやってきた。ページ下にある一行情報。これを一行スキャンダルと名づけたのが吉行淳之介。「あれは、実にあやしい。だからこっちの想像力がかきたてる」と毎月の発刊を待ちわびていた。気の小さな権力者、文化人を寒からしめてきたのである。読者層は、年齢に関係なく、好奇心旺盛で、情報に対する感度の鋭い人間たち。勘のいい雑誌経営でもある。筒井康隆のコラム「狂犬楼の逆襲」には、筒井のいいなりの原稿料を払っている。「ペログリ日記」の田中康夫長野県知事、斉藤美奈子の「性差万別」などコラムが面白い雑誌は売れるというセオリー通り。もちろん、黒字での休刊である。損害賠償金が高騰し、払いきれなくなるかもしれないというのも背景にあるらしい。
 この編集部というのがいい。総勢7人。副編集長の川端幹人はアダルトビデオのシナリオ、監督、出演もやった男。現場を仕切る。岡留はノー天気にイケイケドンドンとスキャンダルを楽しむタイプで、物事を全く悪い方向に考えず突き進む。川端はマイナス思考で、物事の最悪ケースを考えて、慎重に、保険を掛けながら行動するタイプ。この二人のバランスに神林広恵デスクが加わる。20歳そこそこで入社し、ゴシップをがんがんやり始めた優れもので、彼女の存在が大きく、雑誌売り上げを急速に伸ばした。風俗情報誌出身の曽我部、常松。神戸新聞出身の西岡などなど。彼らが尾行、張り込みもする。作家・渡辺淳一と女優・川島なお美を阿寒湖まで追いかける。ノンフィクション作家の柳田邦男が夫人と別れて一人暮らしをしているのを直撃し、罵倒されている。元NHKでは考えられない取材だろう。一説では、岡留の月の取材費が200~300万とも。トップがこうだから、「報」「連」「相」などの管理職場とは程遠く、すべてにアバウト、取材費の使途にもうるさくない。遅刻、中途抜け出しは当り前の無法職場。休刊のあとは全員、再就職に自信なしという。
 この「噂真」がなくなったら、権力者たちはやりたい放題になるのではと危機感を募らせる知識人?は多い。森喜朗、安倍晋三なんかは特に胸をなでおろすのではないか、と。こうみてくるとタテマエ論の報道では、どうも権力の暴走はとめられない。イラクの日本人外交官2人への襲撃はひょっとして米軍の誤襲撃だったのでは。日の丸・君が代の東京都教委の誰が考えてもおかしい前近代的な攻撃に、マスコミが全く無力なのはどうしたことか。石原慎太郎の本質をさらけ出させる媒体はあるのだろうか。などなど考えると、噂の真相はなくてはならないと思えてくる。
  そして、ダッハウ収容所から奇跡的に生還した牧師の言葉を、なぜか思い出した。
「ナチスが共産主義者を攻撃したとき、自分は少し不安だったが、共産主義者ではないと何も行動しなかった。次にナチスは社会主義者を攻撃した。自分は更に不安を感じたが、社会主義者ではなかったから何も行動に出なかった。ナチスは学校、新聞、ユダヤ人などをどんどん攻撃し、そのたびに不安は増したが、それでも行動に出ることはなかった。それからナチスは教会を攻撃した。自分は牧師だった。だから立って行動に出たが、その時はすでに遅かった」。

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