反緊縮への理解深まる

 2月28日午後、歩いて10分の富山大学に急いだ。同大・新里教授からの誘いに二つ返事で応じてみたが、はてさて理解できるのだろうかの不安が先立つ。第23回政治経済学セミナーは約5時間で5テーマが報告され、それぞれにコメンテーターが付いて論議を深めるという手法だ。バラエティに富み、興味深く、新鮮で刺激的であった。有料で一般参加を募っても大丈夫であろう。

 目的は、翌日に講演を依頼している松尾匡・立命館大教授の「反緊縮経済政策理論の整理の試み」を予めに聴いておこうということだった。30年以上続くデフレ連鎖を断ち切る切り札こそ反緊縮で、その先頭を走るのが松尾教授だ。期待する声は日に日に高まってきていた。背後に感じるのは、このまま手を打たなければ、次の世代はほとんど貧困層となり果てるのではないかという危機感である。コロナウイルス騒動がこの退潮に止めを刺すのではないか、という恐怖も重なってきている。

 結論からいえば、反緊縮政策でしかこの現状を変えることはできない。つまり日銀の国債引き受けでカネを供給し、そのカネを福祉・医療・教育・生活保障に確実にいきわたらせる。この投資の社会化こそ決め手であり、回復の必要十分条件となる。異次元の金融緩和を日銀・黒田総裁は実行したが、マイナス金利となっても企業は設備投資どころか、人件費も削り続け、内部留保でため続けるしかなかった。臆病な企業経営は怖がっているだけで、GAFAや中国に出し抜かれるだけだった。カネは銀行が企業や個人に貸し出すことによっても生まれる。信用創造といわれるものだが、この手法では実質的な有効需要にはならなかった。さすれば福祉・医療・教育・生活保障分野に直接ヘリコプターで配分するしかない。確実にカネを必要なところに配るのである。しかし、配ったものを受け取るだけで解決するわけではない。介護保育分野で賃金改善は図ったが、経営者の懐だけを潤すことになった例も多い。この分野のマネジメント能力や、民主的な組織運営は不可欠である。いわば当事者が問題解決能力を発揮できる環境整備が前提となる。この状況認識で一致できる仲間を結集しなければならない。簡単なことではないが、やり抜くしかない。

 印象的な光景が脳裏に残った。29日の講演会終了後に共産党の古参党員の人の呟きだ。「こんな簡単に金が生まれてしまうということは、モラルのタガが外れてしまうのではないか」。額に汗して働くという基本がないがしろにされれば、もっと大事なものが壊れてしまうという危惧である。イギリスでの産業革命などを経て、到達したのは高度な知識産業であり、幅広い教養にデジタルセンスが高付加価値を生んでいる。従来の働くイメージでは食っていけない現実を古参党員の方にもぜひ理解してほしい。そして、貨幣の呪縛から解放されるきっかけにもしてほしい。

 セミナーでの新鮮な事例をひとつ紹介したい。「CLILを意識した経済教育教材の開発」を発表した久井田直之・日本大学講師だが、英語でまなぶというCLIL(クリル)学習法をぜひ記憶に留めておいてほしい。EUで開発されたという話だが、EU域内の情報をより共有したいということで、統合的動機を重視している。英語を学ぶではなく、英語で数学、理科、社会、音楽などを学ぶ。高校ぐらいから始めると面白いのではないかと思った。記憶重視の授業から、英語で考える面白さを会得し、当然留学を視野に入れるのだ。リカレント教育でもこの手法をやってほしい。

 

 

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