後輩X君へ

元気でやっていますか。君はいま、わが長男と同じ35歳、いわば団塊ジュニアにして、受難の世代です。NHK特集を見るまでもなく、厳しい状況にあることはよくわかります。半面、社会に出て10年余、世の中こんなものです、と居直っているようにも見えます。人生の先輩というのもおこがましいのですが、“さにあらず”と最後の挑発をしてみたい衝動に駆られました。時代は激動の渦中にあり、ちっぽけな経験則など当て嵌まらないが、思いだけは伝えておきます。数年前に購入していた毎日新聞OB河内孝の著「新聞社~破綻したビジネスモデル」(新潮新書)を読み返し、触発されてのものです。
 小生が入社したのは昭和43年。当時の人事部長は、新聞というのは購読料と広告とふたつのポケットがあり、経営はゆるぎないといっていました。購読料は3年おきぐらいに改定され、世帯増加で部数も着実に増え、広告収入は2桁成長です。技術革新もめざましく、経営の効率は格段に改善されていきました。誰もがその恩恵を享受できる時代だったのです。それがどうでしようか。喪われた10年で急減速となり、昨年末から急降下です。あれよあれよと逆回転で、奈落の底に落ち込んでいく恐怖に、なす術なしと推察しています。それでも、手探りで苦労している君の表情が眼に浮かびます。
 1月26日、誰もが予期せぬ社長解任劇が起きました。予期せぬといわぬまでも、より親しい仲間内の酒席では、解任動議の票読みをやっていました。窮鼠ネコを噛むことすら想像できない驕り、鬼になるという時代錯誤経営、女性スキャンダルを自ら清算できない公私混同、ここまでやるかという下劣な忠誠心競争。そんなことを思えば、当然の成り行きです。
 しかし、問題はこれからです。いわばパンドラの箱を開けたようなもの、特に河内氏が指摘する部数至上の虚妄は喫緊の問題です。社長交代だけで、すべてが解決するものではありません。解任劇を目論んだ人たちも、個人的な思惑が動機であったにせよ、構造的なビジネスモデル崩壊という危機感がそうさせたはずです。当然、新しい経営理念が掲げられ、役員会はもちろんのこと、組合であれ、職場であれ、また俄仕立ての職場横断的な勝手連組織も加わり、百家争鳴といった熱い論議で沸き立っていることだろうと想像していました。あれから3ヵ月余、意に反して、聞こえてくるのは、社長が代わっただけですよ、という投げやりな声ばかりです。
 九州の地方紙OBからの檄文によると、夕刊を廃止し、朝日新聞の賃刷り契約を行い、印刷工場を別会社にし、退職金の大幅カットと、時間と競争するかのように手を打っています。消費税アップ前に経営体質の徹底強化を図るという戦略です。そこまで追い込まれていないというのは、部数の虚妄にどう立ち向かうかどうかの覚悟が出来ていない証左といえます。
 野に遺賢ありや、なしや。これがキーポイント。手垢の染まっていない新鮮な人材が出てくるかどうかです。とてもいません、という返答だろうけど、それは間違い。きっといます。かくいう君がそうです。35歳こそ有資格者。幕末から明治維新、敗戦からの戦後復興、君みたいな若い人材が困難に立ち向かったのです。とにかく今からでも遅くはありません、勉強を始めてください、できれば志を同じくする人が集っての勉強会を組織するのもいいでしょう。自社の損益計算書ぐらいは自分で読み込むことです。
 企業のステークホルダーとして、最も影響力が発揮できるのは株主です。ほぼ社員全員が株主という構成は、いままでは全く機能せずに、裸の王様を君臨させてきましたが、これからはこれを武器にすべき時にきています。株主総会で全員が、意思表示をすること、いわばリーダーへの信任投票です。より厳しい状況に直面することは目に見えていますが、そこには解放された働く喜びがあるはずです。個人の尊厳が尊重される職場の意識レベルをどう確保するか。各人が問われるべきです。委任するということはその放棄に他なりません。自己決定の厳しさと生きがいは裏表といえます。さあ、勇気を出して言葉を発してください。もちろん得意のユーモア精神も忘れずに。見守っています。

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