苦しくとも希望の船出

窮余の一策とはこのことであろう。このHP「ゆずりは通信」が出版されることになった。いや自作自演だから、出版せざるを得なくなったというべきか。苦しまぎれのこんな経過である。父のあとを継ぐことにしたのだが、何とも情緒的過ぎた。いや幼稚でさえあった。
 父・正作が新湊市で衣料品店を開業したのは昭和34年。資本金80万円で、社名は店名と同じで有限会社婦人商会である。その開店初日の賑わいぶりは凄かった。店棚の商品はすべて売り切れ、父は売上代金をそっくり手にして、その夜の夜行列車で仕入れに出かけた。春先から父の認知症介護をしているが、その頃の話となると、鮮明な記憶となってよみがえり、話が弾む。そんな表情を見ていて、ふと継承してやろうと思ったのである。明治生まれに贈る、昭和生まれの心意気である。社名はそのままというわけにいかず、ユーウィンに変えた。YOU WINである。顧客に何となくやっていけそうだと思ってほしい。そんなコンセプトで、大げさに考えない身の丈の社会的企業といったところ。したがって、銀行借り入れはしない、仲間は多いが従業員は採用しない、事務所など固定資産をふやさない。この「3ない」が経営原則。I WINではない、そっと手を差し伸べる心優しき営業活動が経営方針だ。
 ここまではいい。問題は何をやるかである。債務超過の赤字有限会社を継ぐというのは、立て直す気概があるかどうかが問われていたのである。迂闊なことにそんなこともわかっていなかった。心意気だけで経営は出来ないのだ。どこの地方都市もそうだが、いまはわが店自身見る影もない。はてさて、と悩んでいた。そんな時である。印刷会社の社長に、あなたのホームページをそのまま出版してはどうか、とそそのかされた。会社の定款を変更して、発行元になることも可能だという。
 というわけで、何とも面映い結果になってしまったが、仕方がない。いま自分に売れるものはこれしかないのである。こんな程度で売るのか、破廉恥ではないかという声も承知だ。しかし市場から手ひどいしっぺ返しを食らって在庫本に埋もれてしまう危険性もあるので、これこそ自己責任とも思っている。居直りともいえるが、9月に決意した。
 そんなところに悪魔のささやきである。筑紫哲也さんに推薦文をお願いしたら、どうだろうか。本の帯にあるだけで売れ行きが違うという。権威付けはいやだ、素のままでいいではないかと反論するが、声は小さい。そんな余裕はないはずだ、に背中を押されてお願いすることになった。解散総選挙のさ中に原稿に目を通してもらい、実に過分な推薦をいただいた。恐縮至極、汗顔しきり。ビジネスの最初の一歩とはこんなものなのである。
 さて、更に。実に悩んだが、本の代金の一部200万円をNPO開設資金に充てることにした。単に本を売るだけでいいのか、次の一手がないという鋭い指摘だ。そして、思い起こしたのが「ビッグイシュー」(?228)。ホームレスが自力で生活できるようにして雑誌を発行するあの手法である。社会的企業とNPOの資金循環であり、つまらないエッセイに大事なお金を投じて下さるのなら、一挙にいまひとつの夢につなげていくのもいいのでは、と思い至った。団塊世代に先駆けての世代間連携を図る“ボランタリー経済”“コミュニティビジネス”の実践としてのNPOである。もっと多くの有志を集め、具体化しなければならないが、最初にまとまった資金があるとないとでは雲泥の差である。
 というわけで、厚顔無恥の60歳は、苦しくとも希望の船出だと思っている。あのがん騒ぎも、後押ししてくれたことは間違いない。口の悪い友人は、お前は葬儀をやらないといっているから、香典代わりだといって皆に頭を下げろという。
 とにかく11月10日が発売予定だ。「ゆずりは通信~昭和20年に生まれて~」。定価2000円(税抜き1905円)。500ページ。発行元が有限会社ユーウィン。予約購読申し込みを開始したい。送料は当方の負担で、同封の郵便振替で振り込んでいただく。
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