イラク派遣は何だったのか

アメリカがイラクで半永久的な基地を作っているという。ベトナム戦争の泥沼化を思い起こし、早期に米軍撤退もあるのかと思ったが、どうも見えていなかった。米軍は100以上の小基地を14に集約し、さらに滑走路を持つ4大基地をイラクの主要地域に配置し、厚いコンクリート防壁で囲み、要塞化している。なかでもバグダッドの基地はアメリカ大使館がその広壮な要塞ビルに陣取り、迫撃砲の攻撃にも耐え、水も電気も基地専用で供給されている。クウェートの兵站基地から物資が毎日供給される。忘れてならないのが、その輸送に日本の航空自衛隊は今も継続して一役買っていること。戦闘区域でないという小泉流詭弁が前提となっている。
 問題は、何のための基地永久化か、だ。アフガニスタン侵攻に先立って、ウズベキスタン、キルギスタンの中央アジアにも空軍基地を設置したが、アフガニスタンの首都カブール近郊のバグラム基地も含めて連携させると、イランを包囲する基地回廊になる。イラン牽制もあるが、世界の石油8割を埋蔵する中東に睨みをきかす事ができることだ。更にイスラエルを守ることができる。そして「不安定の弧」といわれる中米、アフリカ、中近東、東南アジアに楔を打ち込み、分割管理する利点も得られる。そんな国益を踏まえ、後付けの、次なる世界戦略の大義名分を探し出そうとしている。
 アメリカを取り巻く情勢は大きく変化している。ベネズエラ・チャペス大統領の反米路線も強烈だが、これが南米諸国に広がりをみせている。ロシアも石油、天然ガスの資源が大きな自信を与え、プーチンのコワモテ内政、外交が揺るがない。これに中国などが加わった上海協力機構だが、インド、パキスタンがオブザーバー参加を決めている。そしてEUの拡大と通貨ユーロがドルに代わる基軸通貨になる日が来るという予測だ。アメリカ一国の単独覇権主義が、いつの間にか反米包囲網に囲まれて孤立を余儀なくされるという事態になるとも限らない。
 ひるがえって、わが国はどうか。サマーワ駐留の陸上自衛隊が2年半の任務を終えて、撤退を迎えることができた。誰よりもホッとしているのは首相自身であろう。今更論議を巻き返しても、野暮だという心理だが、水に流してはいけない。いや米軍再編の日米合意をみると、その延長線上を何も考えずに、ひたすら国益はこれしかないと自分にいい聞かせながら、目をつむって走っているようにみえる。
 精神科医・香山リカのこの指摘は正しい。国の重大な政策が理想や善悪よりも、国益を優先に決められる風潮が強まっている。そして国民の多くは事情通になろうとしている。イラク派遣も心情的には反対なのに、「今の日米関係では従うしかないのだ」と妙に理解を示そうとする。政策を批判するどころか、逆に共感すら覚えている。これでは小泉首相も都合がいい。自分が汚れ役を引き受けなくても、国民が勝手に事情を読んで、後押ししてくれるのだから。自分に火の粉が降りかからない間はよくても、改憲され、徴兵制でも始まったらどうか。福祉が崩壊して格差が広がり生活が立ち行かなくなったら。「負け組」というレッテル張りも、強者がいいように利用している。弱者は「自分が悪い」と責める。事業に失敗し、病気になっても、助けを求められない患者さんが多い。社会や制度が問題でも、怒りをぶつけられずに、おとなしく自滅していく。増える自殺は,行き詰まった日本社会の反映といっていい。
 次期自民党総裁が確実視される安倍官房長官は、こんな世界情勢では危ないリーダーと思わざるを得ない。対米協議ではその人脈を駆使して、辣腕を振るうというが、「かかってこい!」と叫んだブッシュに連なる人脈に取り込まれる危険もその分大きいということ。真の国益を考えれば、ホワイトハウスに門前払いされる首相でもいいではないか。世論なるものも、目を覚ましてほしい。

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