「ごめんね でてこい 」

 夏休みを目前にした書店には、児童向けの課題図書が並んでいる。ひょいと手に取って眺めていたが、ついに読み切ってしまった。15分余りだったか、抱きしめたいほどの感動がよぎった。小学校低学年向けの「ごめんね でてこい 」(文研出版 1320円)。言葉使いがリズミカルなうえに丁寧で、どんどん進む。出来れば、声を出して読み聞かせたいと思えてくる。80歳になるじいさんが、おばあさんに近い心理になってくる。不思議な経験となった。

 ストーリーを紹介する。大好きなおばあちゃんと、少しの間いっしょに暮らすことになったはなちゃん。優しいおばあちゃんと過ごす時間はとても楽しかったけれど、「でもね」で始まる注意にだんだんもやもやしてくる。仲良しの友だちが遊びに来て、その帰り際、友だちにあることを注意したおばあちゃん。もう行かないという友だち。我慢できなくなったはなちゃんが「おばあちゃんなんて、きらい!」といってしまった。「ごめんね」を抱え込んでしまうことに。

 時間が過ぎて、おばあちゃんが入院したと聞いて、見舞うはなちゃん。「また来るね」といっての別れ際に、表情が乏しかったおばあちゃんが急に「帰っちゃダメ」という。驚くはなちゃんが今までのことを思い起こし、涙を流しながら「ごめんね」と、おばあちゃんに抱きつく。

 どうして、こんな絵本が生まれるのか。作と絵はささき・みお。編集が文研出版の担当の生田悠。ささきが自らの幼児体験を語り、生田がリードしていったのだと思う。編集担当の役割は大きい。ささき・みおのプロフィールだが、70年の東京生まれ。54歳の年齢と経験が落ち着いた文体となっている。武蔵野美術大学油絵科卒はわかるが、日大農獣医学部林学科卒がわからない。アート系だけでは不安があって、理系でのスキル獲得と思ったのかもしれない。広告代理店等を経て00年にフリ-となった。児童書の挿絵、イラストはお任せくださいとPRしているが、年内は手一杯です、と断っているのが微笑ましい。

 金沢でスタートし、児童書のブランドを確立した福音館書店の松居直は、絵本は「子どもに読ませる本ではなく、大人が読んで聞かせる本」だと考えた。信頼する大人の声に包まれながら絵本の世界を自由に旅することで、心も豊かに育てることができる。

 さて「ごめんね、こんな世の中しか残せなくて」と謝るじいさん、ばあさんよ。絵本の企画書を児童書出版社に送り、遺書代わりに絵本一冊を世に送り出していく手もあると思う。

 

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