大中華圏

「上野発の夜行列車降りた時から」。ご存じ石川さゆりの津軽海峡冬景色だが、その津軽海峡に異変が起きている。北米と中国を結ぶ貨物船が引きも切らずに行き交っているという。中国と北米の貿易量が急増し、両大陸を結ぶ最も近い航路として利用されているというのだ。わが目前の日本海沖もそうした船が荒波を蹴立てて走っているのであろうか。11月16日、寺島実郎三井物産戦略研究所長が「環日本海の現実」と題して講演した。さわりだけ聞くつもりが2時間、席を離れることができなかった。
 中国は巨大な消費経済の扉を開けた、で始まる。日中間の貿易量はわが国総貿易量の3割で、日米間の2割をはるかに超えている。アメリカにおいても、米中間が日米間をはるかに超えた。12億7000万人の人口が大消費を支えるようになり、低賃金の生産輸出から大きく様変わりしている。一握りの富裕層といっても約5000万人だ。ホンダの現地生産アコードが、日本円換算で400万円だが、生産が追いつかないし、資生堂の高級化粧品も売れ出している。「海の中国」に注目しろと指摘する。香港、シンガポール、台湾の含めた大中華圏まで視野を広げないと実像が見えてこない。台湾から上海に100万人が移住し、中国の電子産業の5割が台湾系企業で占めている。シンガポール経済は華僑が6割、といった具合だ。港湾荷役額の順位を見ると、もっとはっきりする。第1位が香港、シンガポール、上海、深圳(しんせん)、釜山、高尾(台湾)、ロッテルダム、ロサンゼルスと続く。神戸、横浜が出てこない。四国今治港から釜山へ直接運んでいる。コストが安いからだ。ついに日本はハブ空港、ハブ港湾が持てなかった。そんな世界規模の競争から取り残されつつあることも銘記しなければならない。その海域の安全保障の視点で見ると、中国原子力潜水艦の動きも分かりやすい。いろいろな矛盾や弱点を抱えているが、08北京オリンピック、10上海万博までは、勢いで乗り切ってしまうという見方である。
 一方ユーラシアに眼を移せば、ロシアである。ロシアの石油生産がサウジアラビアを抜いて世界一になり、米の石油掘削技術と結びついた米露石油同盟といった関係にある。経済成長率は7%。サハリンの天然ガスが日本ではなく中国に向けられた。日本のエネ庁の大失策であるが、誰も批判の声を挙げない。サハリンから北海道へのパイプラインは、道経済の大きな転機になる。新幹線の延伸よりパイプラインである。また、ドイツからも眼が離せないという。東独救済に気息奄々と見るのは表層的で、EUの予算の6割を負担し、EU隠れ蓑に目立たずに動きだしている。
 21世紀は日本の表と裏が逆転し、日本海が内海となる。戦後半世紀、日本は太平洋側から、米国を通じて世界を見てきたが、過剰な米国依存から早く抜け出さねばならない、とまとめた。名実ともに、逆さ日本地図が登場する時代がやってきている。靖国にこだわり、ブッシュに擦り寄る小泉から、どう転換させていくかだ。「大中華圏」は岩波書店から出ている。渡辺利夫、朱建栄、寺島実郎の監修。
 さて、アラファト議長が亡くなった。「我が妻はパレスチナ」と61歳まで独身だったが、34歳若いキリスト教徒のスーハ夫人と結婚している。そして66歳で娘をもうけた。その時、イスラム原理主義のハマスは“非”犯行声明を出したという。こんなジョークがイスラエルの新聞をにぎわせたら、と思う。また、アラファトがパレスチナのGDPを超える蓄財をもち、まるで自分の財布から予算執行する形でその権力維持に使われていたことも明るみに出た。フセイン大統領もその資金提供者である。後だしジャンケンみたいに、死んでから権力者像を出してももらっても遅い。信頼できる国際派ジャーナリストの出現が待たれる。パリ通信の藤村信は元気なのだろうか。

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