ローカル局の踏ん張り

 ローカルを基盤とした企業は胸突き八丁に差し掛かっている。ローカルテレビ局も例外ではない。17年7月に富山・ほとり座でみたドキュメンタリー「人生フルーツ」が東海テレビ制作と知って、こんな活路もあったのかと驚いた。そして、12月30日何気なく見た「言わねばならないこと~防空演習を嗤(わら)った男・桐生悠々」に釘付けとなり、最初はNHKかと思ったが北陸朝日放送制作と知り、その流れを汲む動きかと納得した。富山で朝日系列の番組をみるにはケーブルテレビの契約が必要。無駄な出費をと思いつつ、通信との同時配信となれば解消されるが、そうなるとローカル局は更に窮地に追い込まれる。でもこれほどの質の高い番組を作れば、映画上映となって劇場で見ることも可能になり、十分に稼ぐことができる。

 さて、この番組のディレクターで51歳の黒崎正己がその動機を語っている。2年前の夏、輪島市で弾道ミサイルの落下を想定した避難訓練が行われた。政府指示の「物かげに身を隠す、地面に伏せて頭部を守る」訓練を淡々と伝える報道に、こんなバカげたものでいいのか。私たちがまず伝えるべきは、こんな訓練に意味があるのか、本当は誰のための、何のための訓練なのか、そういう問いではないか。そこで桐生悠々にいきついた。

 金沢市出身の新聞人であった悠々は信濃毎日新聞の主筆も務め33年8月、軍部の演習を批判した社説 「関東防空大演習を嗤う」で軍部の逆鱗に触れ、信毎を追われる。その後、名古屋に移り、個人雑誌「他山の石」を発行し、度重なる発禁処分を受けながらも軍部の暴走を批判し続けた。番組では、悠々の論説記事を読み直し、現代のニッポンにも通じるその主張の普遍性を訴えている。また、在郷軍人会と特高警察による戦前戦中の言論抑圧の実態を究明するほか、悠々の子孫を訪ね、家族が戦後をどう生きたかも追った。中村敦夫や望月衣塑子の登場も熱意が迸(ほとばし)っていて伝わってくる。

 地元なので別の側面も指摘しておきたい。北陸朝日放送に北国新聞の資本が入っていない。このことが忖度を生まない自由な制作を許したのではないか。共謀法に賛成した論調は読売と北国新聞の2紙だけだった。その覇権主義が際立っている。その論証ということでもないが、金沢の老舗である北陸放送の資本構成の変化をウィキペディアで見ることができる。ここの創業者は嵯峨保仁であり、代々嵯峨家のものと思っていたが、いつの間にか北国新聞が筆頭株主に代わっている。その間何が起きたのか興味深い。読売新聞も正力、小林家がいつの間にか消えて、渡邊恒雄がオーナー然として君臨するようになった。新聞テレビでは意外にオーナー系の企業が多く、ジャーナリズムがどれほど意識されているか、注目する必要がある。中日新聞もオーナー系で、系列の東京新聞で労働争議を引き起こしているが、東京新聞の左派論調が売れると判断しているふしがある。同新聞の藤村信による「パリ通信」も際立ったレポートだった。

 コンテンツといわれると戸惑ってしまうが、能登の僻地で起きたJアラート騒動をここまで普遍化し、高める視点で取材し切る能力ある人材をどう育てているかがポイントであろう。ローカル局で苦労している経営者もスタッフも、ぜひ自覚してほしい。

 大晦日に、年賀状をさぼって書いている。10年以上も前に書いた「ゆずりは通信 画家・木下晋」へのアクセスがEテレでの放送もあって急増したのだ。これもうれしく、パソコンの前に引き付けた。

 2020はオリンピック報道の目くらましに惑わされてなるものか。そんな気概でのぞんでほしい。みなさん、いい年を。

 

 

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