わが家はめっきり寒い。「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居は、耐え難き事なり」(徒然草)。亡妻は40余年前に設計士と熟議し、大きな開口部を取ってクーラー不要の涼しげなる家とした。電気代の安さを密かに自負している。冬は昭和さながらの灯油ストーブで、炬燵も使っていない。しかし、眠る時はそうはいかない。愛用するは湯たんぽ。寒さがより厳しくなると湯たんぽがふたつとなる。胸に抱きかかえると、スッと眠りにつける。加藤登紀子「ひとり寝の子守歌」よろしく、おなごを抱くように快眠に誘ってくれる。頻回の尿意とも無縁だ。快眠のありがたさは何事にも代えがたい。
この睡眠をテーマにビジネスが広がっている。現役で東京出張をこなす後輩がホテル代の高騰に悩んで見つけたのが平日1泊4100円のカプセルホテル。もちろん変動するのだが、NTTデータが「睡眠分析ホテル」と銘打って、品川駅に隣接して開業した。「ナインアワーズ品川駅スリープラボ」。日経新聞が2月19日付けで早速特集している。
男性専用だが清潔感が快く、安っぽさがない。更に宿泊の5日後に睡眠解析レポートが届く。ユニットの壁面に取り付けられた赤外線カメラと収音マイクで、宿泊者の口元の動き、いびきや呼吸音、寝返りや心拍数など14のデータを採っている。通院や入院しなくても睡眠データが得られ、不安に思えば診療所へ行けば良い。先端技術で睡眠の質を高める動きは「スリープテック」と呼ばれ、様々な企業が参入してきている。NTTデータでは1000万人のデータを集め、医療機関のほか睡眠関連商品を手掛ける企業との連携を深めている。
ナインアワーズは宿泊だけでなく、仮眠、シャワーのみなどの滞在利用も可能で、新しいホテル機能を売り出している。普通のホテルはインバウンド層で埋まり、カプセルが自国サラリーマンと考えると侘しく思えてくる。
日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、OECD加盟32カ国の中で最下位で平均から1時間以上も短い。睡眠不足は労働生産性の低下につながっている。睡眠改善こそが日本経済回復の鍵といっていい。
ところで、わが社のイムニタスマスクもどうにか生き残っている。わが快眠もイムニタスマスクの恩恵である。ナインアワーズホテルの常備品にしてもらえないか。老体に鞭打って、出かけねばならない。