男おひとりさまの老後

出版社を営む友人に、この企画でビルが建つぞ、少なくとも借金がきれいさっぱり無くなること請け合いだ、と話していた。柳の下の2匹目を狙っていたのだが、何と一匹目で100万部を達成した本人が取材をしているというのだ。ところが「取材を始めてから2年たつのですが、まだ完成していません。書けない理由は、取材すればするほどお先真っ暗だからです」。上野千鶴子教授は“オトコ”を嘲っている。更に続けて「女性は貧困が課題だが、男性は社会的ネットワークを築けず、孤立、孤独、ひきこもりに陥りやすいのです。これはカネの問題以上に深刻なのです」と哀れんでもいる。サンデー毎日(7.19号)“「男おひとりさま」サバイバル術”という特集だが、このまま見過ごすわけにはいかないだろう。男おひとりさまを代表して、反論し、“オトコ”の奮起を促さねばなるまい。
 おひとりさまは男女を問わず、死別シングル、離別シングル、非婚シングルの3パターン。それぞれに思い浮かぶ。悲惨な例も事欠かない。死別から5年で、自らも同じがんを患い、亡くなってしまった男。自らは再婚も考えていたようだが、娘がそれを許さない様子で、父娘がタコツボに入ってしまい、そのストレスの影響だと思っている。離別を3回繰り返したモテ男は、許容範囲の狭さを相手にも求めすぎたようだ。生真面目さと独りよがりの甘さが同居していて、今酒に溺れかけようとしている。非婚の男は、母の墓を父の実家の墓から分離させて建立し、その傍らに自らの墓を立て、永代供養の支払いも済ませた。天涯孤独となり、糖尿病の進み具合に脅え、ひきこもり状態となっている。資産が十分なので、遺言信託でわが医療法人への寄付を条件に面倒を見るからといっているが、頑として応じない。
 こうしてみると、上野教授の指摘もむべなるかなと思えるが、紹介しているサバイバル術だ。「オトコのおばちゃん化」を挙げている。うわさ話、世話好き、安売り情報に通じよという。そうすれば、おばちゃん女と同じ目線で話をすることが出来、ちょっとは付き合ってもらえる。もちろん肉欲なしのお情けにすがる関係で、これこそ男おひとりさまの最高の良薬だとしている。
 さあ、反撃である。ここまで虚仮にされるいわれはない。わが先達、映画「仁義なき戦い」を監督した深作欣二を見よ。前立腺がんの抗がん剤治療を拒否、男の機能を維持することに賭けた。それも荻野目慶子との関係を、お情けのものにしたくない70歳男の矜持がそうさせたのだ。男女のコミュニケーションが、おばちゃん話で成り立つなんぞ、こちらから願い下げである。せっかく男女に生まれ来て、それもその終盤で、真剣勝負ができないとはどういうことだ。それぞれの覚悟を秘めて、命がけの駆け引きこそ、命のよみがえりというもの。孤立、孤独を恐れるあまり、ぬるま湯関係に堕してなるものか。「連帯を求めて孤立を恐れず、力及ばずして倒れることを辞さないが、力尽くさずして挫けることを拒否する」。そうだろう、オトコ達よ。
 こんなひとりよがりの論議を「男のカンチガイ」と上野は一蹴する。「男にとって女の最大の役割は、男の自尊心のお守り役である」。「すごいわね、あなた」と見上げる荻野目に深作は陶酔に似た自己満足を得て、昇天する。そんな役割を持ち続け、男のカンチガイをそのままに放置してきた結果が、藤原紀香と別れた陣内智則との関係だともいう。
 男が抱える女への幻想。女が抱える男への幻想。これが交錯することなく、男おひとりさまの老後が始まろうとしている。これこそどう選択しようと、残り少ない人生ゆえに、自己責任といわれてもいいのだ。頑張るのだ、男達よ。逃げ込むな、女たちよ。
 ところで、サンデー毎日に注目しているわけは、山田道子編集長にある。出版大不況の中で最老舗週刊誌をどのようにリードしていくのか。初の女性編集長のお手並みはどうかだが、ひょっとして、最後の編集長となるかもしれない、そんな厳しさでもある。
 参照/紀伊國屋書店発行「scripta」12号“非モテのミソジニー”上野千鶴子

© 2024 ゆずりは通信