東京出張の折りに必ず立ち寄るところがある。東京駅から徒歩1分、八重洲ブックセンター。鹿島建設の鹿島守之助氏が読書家のためにつくった書店。あらゆる分野のものをそろえるように、というのが彼の思い。ということもあり、やはり日本一の書店だと思う。そして店員教育が行き届いているのがいい。どの人に聞いても的確に教えてくれる。列車待ちの時間を利用する。ゲームを楽しむように所用時間1時間内。予算1万5千円、しかもこの額を超えなければならない。送料が無料になるからだ。しかしこのために何度となく同じ本を買わされる破目に。本当にくやしい。著者別及び分野別に並べるようにしているが、いざ届いてしばらく机の上に置いておくのだが、置ききれなくなると棚に移す。そこで初めて、あれ、ということになる。新書や文庫本ならいいが、2千円以上もすると自分で自分の頭を「馬鹿め」と拳骨で殴ってやる。
悩みはこんな問題ではない。現実に読めないのである。近視に乱視に老眼、加えて眼精疲労。ものの30分もしないうちにショボショボ眼になってしまう。これでは定年後に備えて、というのもなかなか覚束ない。しっかり者の息子には、図書館を利用しろ、読めもしないものばかり買ってどうするんだと叱られている。しかしこればかりはやめられない。新しい本を手にする喜び,しかもいつまでも自分の傍における喜びはこたえられない。
いま出版界は大不況である。町の小さな書店は次々と姿を消している。そして県内三大書店グループも最後のサバイバル戦争に入ったといわれている。本が売れない。これは本当に深刻だ。さらにグーテンベルグ以来の印刷技術がIT革命なるものに脅かされている。あなたの好き本をその場でプリントしてくれるという。店内で待っている間にズボンの裾を直すように。 すべてがコンピュータの中におさまってしまうのだ。講談社と富士ゼロックスが既に参入している。いったいどんな時代がやってくるのだろうか。