いま注目しているのは角川歴彦(つぐひこ)角川書店の元会長である。「角川人質司法違憲訴訟」と自ら名付けて、司法制度を変えるべく闘っている。82歳、すべて投げ打ってもという覚悟がみえてくる。
東京五輪を巡る汚職事件だが、2022年9月14日贈賄容疑で逮捕され、それから23年4月27日の保釈まで、何と226日間も拘留された。面会中に倒れたり、コロナにも罹患したが、保釈請求はことごとく却下され、5度目の保釈請求でやっと保釈となった。拷問とも呼べる「人質司法」は何とも許せない。人質司法の禁止を目指す角川歴彦の執念に寄り添って、見極めていきたい。
贈賄に関しては、26年1月22日東京地裁での判決は「利己的な動機から高額な賄賂を供与した」として、懲役2年6カ月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。しかし、「到底受け入れられない。真実が明らかになるよう今後も戦う」と、翌日控訴した。角川歴彦はこの刑事訴訟と、国を相手に自ら体験した人質司法に対する損害賠償2億2000万円を求める民事訴訟を闘うことになる。
実は50年くらい前に角川歴彦と名刺交換している。彼の肩書は角川書店営業部長であった。角川書店の創業者・角川源義は富山県出身である。長女の辺見じゅん、角川春樹、角川歴彦と3人の子供はいるが、それぞれに個性的である。辺見じゅんは富山で弦短歌会を主宰していたので、少しつきあいがあり、杉並のマンションを訪ねたこともある。マンションは純和風にきめ細かく手が加えられており、驚かされた。彼女は春樹の才能をかっていたように思う。別の見方をすれば歴彦を軽視しているように見えた。兄弟間の見えない確執が角川書店の底流にあるように想像された。
昨年11月、岩波書店の岡本厚・元社長と話す機会があった時、話題が角川書店となり、角川歴彦の経営手腕を絶賛する口ぶりだった。岩波の経営危機の現状からすると、羨望も入っているのかと思う。歴彦の著書に「躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア」がある。角川書店の経営は源義、春樹、歴彦によって、その個性や能力によって大きく変化し、時代に対応してきた。岩波文庫、新潮文庫に角川文庫として分け入った源義、映画製作に進出した春樹、テレビ情報などのサブカルチャー雑誌の市場を切り拓いた歴彦となる。
ちょっと横道にそれたようだが、そんな角川歴彦が「自分と同じ犠牲者を生まないように死力を尽くすことが、出版人としてメディアに生きた者の責務であり、生涯最後の仕事として取り組む」と週刊金曜日(5月29日号)で宣言している。
加えて、郵便不正事件の村木厚子の「おどろきの刑事司法」(講談社現代新書)を紹介し、人質司法なるものを一掃する機運を盛り上げたい。