アニマルウェルフェア

 日々食べる卵から、その産卵の状況を想像してみたことがあるだろうか。朝食にはスクランブル、目玉焼き、ゆで卵と気分で選んで、毎日食している。購入は週1回、近所の魚屋に配達される富山の社会福祉法人「めひの野園」が採卵した平飼い自然卵「呉茶玉」だが、小ぶりの10個が入って税別220円。欠かすことはない。食品スーパーの特売品となると100円前後で売り出される。安心安全と大きく印刷されているが詳しく表示されていない。世界3位の卵食国民でもある日本人は、ひとり当たり年間330個の卵を食べている。この50年で10倍に増えたのだが、物価の優等生といわれて久しい。「鶏卵価格 過去10年で最低水準 供給過剰 低迷長期化も」の見出しが躍るのが最近の日本農業新聞。超効率化が進んだ採卵現場はどうなっているのか。この安い卵を食べ続けていいのか。消費者が問われることになる。

 こんな書き出しのきっかけは岩波ブックレットの「アニマルウェルフェア」(以下AW)。ゴアの「不都合な真実」を翻訳した枝廣淳子が突きつけている。AWとは、動物にも健康で文化的な成育環境で生きる権利があり、農林省は快適性に配慮した家畜の飼養管理と定義している。目を背けたくなる現状を見てほしい。

 日本のほとんどの採卵鶏は鳥かごを積み重ねたバタリーケージで飼われている。小さな鳥かご(ケージ)に2羽が押し込められ、身動きが取れず、糞尿が下に落ちて処理しやすいよう、鶏の足元も金網である。また傷つけ合うのを避けるため嘴(くちばし)が焼き切られ、休産する換羽時期を短くするために絶水絶食されての強制換羽が施され、ひたすら卵を産む機械と化している。別の飼い方として、広いケージで産卵場所、敷材、止まり木などを備えた「エンリッチドケージ」、「平飼い」、「放牧」とあるが5%未満である。

 一方、肉用鶏はどうか。「ブロイラー」「地鶏」「銘柄鶏」に分類されるが流通するほとんどがブロイラー。ふ化後50日から56日で、3キログラムになると出荷される。これも50年で4倍のスピードで太らされるようになった。それを可能にしたのがエサと品種改良だ。タンパク質含有量の高い濃厚飼料に加え、鶏舎の照明はつけっ放しで、とにかく不自然に太らされる。そのため体重が支えられず、足裏の皮膚炎が多い。その対応策としてワクチンや抗生物質が投与される。更に輸入の限らず国産の鶏肉から薬剤耐性菌が検出される事態になっている。英経済学者のジム・オニールは「2050年には、毎年世界で1000万人が耐性菌で亡くなる」と警告を発している。ほぼ2か月のサイクルで次々と出荷できる効率の影で、こんなに深刻な事態が進行しているのだ。

 更に深刻なことに鶏だけに限らず、豚、牛にも同様な事態が起きていることだ。母豚の例を挙げると、鶏のバタリーケージと同じような妊娠ストールに入れられ、1年に2.5産のサイクルで繰り返し出産させられる。そこは方向転換どころか首も左右に45度しか向けられず、食事も排泄も就寝も同じ場所で、ひたすら立っているしかない。人間であれば、拷問に近い。

 はてさて、どこから手を付けていいのか。卵の選別では、どんな飼育方法か商品に明示するべきだろう。バタリーケージだから安い、平飼いだから高い。消費者は価値判断を迫られる。そこからだろうと思う。
 不都合な真実は、想像もできないような変革を迫っているように思える。

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