拉致被害者家族は5月の連休にアメリカを訪問し、政府関係者や上下両院の議員らに肉親の一刻も早い帰国への協力を求めた。これで何度目だろうか。日米首脳会談でも重ねて協力を求めている。マスコミも何の疑問もないように報じている。しかし、これほど無駄で、国際的にみて愚かな行為はない。ディールのトランプは「こんな口利きほど高いものはないぞ」とテーブルの下から手を出している。解決策を自ら捨て去って、解決のために首脳会談を働きかけるといっている。馬鹿げた芝居をいつまで続けるのだろうか。
拉致問題で批判の急先鋒に立つ和田春樹の講演を聞いた。5月29日、国会議員会館の院内集会。38年生まれの87歳。東大入学から教授退官まで、約50年間にわたって東京大学で禄をむさぼった。悪い意味ではなく、反権威の自由人というのは、かく生きるのだ。そんな風に見える。
もう一度、拉致問題のおさらいだ。日本は戦後長く、北朝鮮の国家を無視してきた。65年の日韓基本条約で、韓国政府を半島唯一の合法政府だと求められたが、それを拒否したのだが、北の政府と外交関係を開くことを全く考えなかった。ペレストロイカが起こり、韓国の軍事政権支配が終わって盧泰愚政権が誕生し、盧政権に促されて、日朝国交正常化交渉に動き出した。02年小泉首相が訪朝した首脳会談で、日朝平壌宣言が締結された。同じ席で拉致が明らかになり、謝罪がなされて、その後拉致者5人が帰国した。その間に安倍晋三が官房副長官、自民党幹事長、首相と上りつめる中で、拉致問題を主導し、最大限に政治利用していく。
06年には、北朝鮮の人権侵害問題に対処する法律を成立させた。救う会の佐藤勝巳、西岡力が拉致被害者の会をコントロールしていく。いわゆる安倍拉致三原則だが、「拉致問題はわが国の最重要課題である」「拉致問題の解決なくして日朝国交なし」「拉致被害者は全員生存している。一括即時返還させよ」。国交回復より、拉致解決が優先だとする。北朝鮮は日本の求めに応じて,3回も拉致被害者の安否を調査して伝えたが、日本側は調査書を受け取らなかった。北朝鮮からすれば、どうすればいいのだとなる。主権国家相手に、4回目の調査をしろと言えるのか。歴代首相は拉致被害者を前に、いつでも首脳会談に応じるというが、何の手立てもない。佐藤勝巳は「隣国の政権を打倒して、初めて拉致が解決する」といっているが、拉致救助で戦争も辞さないというはったりだ。安倍も同調していたようだが、馬鹿げている。それほど拉致の犯罪性をいうなら、朝鮮人の強制動員はどうなんだ。まるで戦前の拉致加害を知らん顔して、どの口がいえるのか。また、被害者家族にいいたい。朝鮮高校の無償化排除は私たちの苦しみからすれば当然だと本当に言えるのか。ここは、私たちはそんな報復を望んでいません。そういってほしい。家族を取り戻すためなら、原爆を持った北朝鮮にもっと大きな制裁をと挑発していいのか。もっと冷静に賢明になっていただきたい。政治家も、子供じみた安倍三原則など愚かな外交策である。思い切り切り換える時が来ている。眼を覚ましてほしい。
日朝の国交正常化を優先させたうえで、拉致問題を解きほぐすのが現実的である。