フジテレビの記者会見で「帝国データバンクです」と声を挙げて、フジテレビのCM中止の総額はいくらかと質問する女性がいた。制限なしの記者会見だが、帝国データバンクは報道機関なのか、という疑問がふと。信用調査をして、その調査情報を個別に有料で販売している。ところが時代が変わり、倒産が相次ぐ状況に「帝国ニュース」を発行しているという。れっきとした報道機関だ。資本金は9000万円と小さいがこれは節税目的。東京・南青山に自社ビルを構え、売上高は566億円、経常利益が97億円の優良無借金企業。凋落著しい全国紙はこれに遠く及ばない。ちなみに帝国ニュースは月~土の日刊で、年間購読料65000円、その他に週1回の地域版がある。その倒産情報は中堅企業には欠かせない存在になっている。
フジテレビの狂騒に飽きて、本屋をのぞくと何と帝国データバンク情報統括部が発行する「なぜ倒産 運命の分かれ道」が目に入った。講談社+α新書で定価1000円。これも何かの縁、買うことにした。
早速と目がいったのは富山のイセ食品。22年3月突然、東京地裁から会社更生法の適用を受けた。その一報には驚いた。創業の伊勢彦信は「卵でピカソを買った男」ともてはやされ、イセコレクションとして名が通り、県内美術館で何度も展示会が行われた。60億円で購入したコレクションの時価は270億円ともいわれ、倒産などとは無縁と思っていた。地方紙の取材は程度が低いとあからさまに蔑み、日経の文化面があこがれだった。倒産の見出しは「引き際を見失った創業者 実の息子が更生法申し立て」。富山の小矢部で、ひよこを触って瞬時に雌雄を判断した天才養鶏者がいつしか世界に打って出て、ニューヨークで「エッグ・キング」「メセナの旗手」ともてはやされる。傲岸不遜がいつしか息子への蔑みとなり、資金繰りの日常イロハさえわからなくなった。無知が招いたといっていい。
さて、倒産ほど惨めなものはない。ある倒産劇では町内会のカネさえ流用していた。帝国データバンクから、あなたの会社の信用調査をしたいと電話が来たら、どうするか。拒否すれば信用調査を受け入れなかったと、その不信は更に大きくなる。このビジネスプランは地味だが堅実強固である。
倒産の多くを見てきた帝国データバンク情報統括部長は、平家物語を挙げて諸行無常を思い起こすという。フジテレビは売上高が予想の233億円下回り赤字に転落する。